野口・・国民を守れない防災計画
館野・・外国基準依存が落とし穴
原発の根本的な欠陥と、再稼働にむけた新規制基準の問題点についてどうですか。
館野淳・元中央大学教授(核燃料化学) 今の原発は、直径及び高さ4メートルほどの炉心で、数百万世帯が使う電気に相当する熱を出します。それを多摩川ほどの流量の水で冷却する。水が止まれば瞬時に炉心損傷に至る、綱渡り的技術なのです。
今回、現にシビアアクシデント(SA=過酷事故)が起こったわけですが、新基準では「~でないこと」などの「要求」をだすだけで具体的なSA対策を当事者任せにしている。果たしてこんなことでいいのでしょうか。
それに原子炉の水位計の信頼性が低い。水素爆発対策では装置による水素の除去が、爆発に間に合わないかもしれないと心配されます。地下水汚染の問題もあります。福島での事故の教訓が反映されていません。
野口邦和・日本大学准教授(放射線防護学) 国の原子力災害対策指針では、プルーム(大気中を雲状に流れる放射性物質)の通過時の防護地域(PPA)の範囲など、いくつかの項目を先送りしています。自治体が防災対策を準備できず困っている状況なのに、再稼働は無責任です。
館野 これだけの事故が起こったというのに、既存の原発を何とか動かしたいという目的に、規制が振り回されているように思えます。
野口 先月、浜岡原発に近い静岡県掛川市主催の学習会に呼ばれたのですが、掛川市は緊急時防護措置準備区域(UPZ、30キロ圏内)に12万人近い市民がすっぽり入り、大きな問題になっています。
2年ほど前に牧之原市主催の学習会に呼ばれたときには、50キロ圏内の住民に(事故時に飲む)安定ヨウ素剤を配るのはとても無理だと言って、以前は自民党県議だった市長も再稼働に反対していました。福島の事故が、各地に大きな変化を起こしていることは間違いありません。
浜岡原発の50キロ圏内には214万人いますが、これだけの人数があちこちに避難するのは難しい。泊原発がある北海道では、冬には通過できない道路も出てくるのが現実です。
館野 事故のシナリオと防災計画が結びついていませんね。
野口 防災計画は、IAEA(国際原子力機関)の緊急時対策の翻訳のようなもので、前述したように先送りされている項目もあり、日本国民を守るものになっていません。
館野 ECCS(緊急炉心冷却装置)の設計なども米国の基準そのままです。外国基準への依存は日本の原子力の最大の問題で、落とし穴となる可能性がありますね。
当面の課題をどう考えますか。
野口 福島県下でも、食べ物は、市販されているものについては監視がしっかりできていて、当初懸念されたより状況はよくなっています。
除染はどうか。私は中通り地域にある本宮市と二本松市でアドバイザーをしています。これらの地域では、外部被ばく線量は当初より半減しています。ただ昨年(2013年)末のデータですが、公共施設や果樹園などの除染は比較的進んでいますが、個人の住宅や道路では遅れています。安心して住み続けるためには、まだまだ除染に力を入れなければなりません。
また、廃棄物の最終処分場をどこにするのか見通しもなく、事故現場も緊急事態が続いている状態で、原発の再稼働や輸出などありえない話です。
館野 最近の世論調査で「再稼働に反対」が6割という結果が出ています。その一方、安倍政権や電力業界は推進の意向を強めており、再稼働についての論争が激しくなることが予想されます。新規制基準の具体的な問題点など、技術的、科学的に批判を強めていくことが大切ではないかと思います。
(おわり)