九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働差し止めを求めた住民側の仮処分申請を却下した4月22日の鹿児島地裁決定。同原発の160キロ圏内に五つのカルデラ火山が存在することから、とくに注目された火山災害の影響についての同地裁決定の評価に、火山学者から疑問の声があがっています。火山噴火予知連絡会副会長の石原和弘京都大学名誉教授に聞きました。
(原田浩一朗)
──「決定」は、原子力規制委員会は「火山事象の影響評価についても、火山学の専門家の関与・協力も得ながら厳格かつ詳細な調査審議を行ったものと評価できる」と述べていますが。
石原 原子力規制委員会が策定した新規制基準のなかの、「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(火山影響評価ガイド)のことを指すと思われますが、同ガイドは火山の監視に関わる気象庁などの機関や火山観測の専門家の関与なしに2013年6月に策定されたものです。
原子力規制委がガイド決定から1年2ヵ月後の昨年8月に「原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チーム」を設置したのは、ガイドの不備を認識したからだと見るべきでしょう。
──九州電力は、火砕流が原発敷地内に到達するような巨大噴火について「少なくとも数十年以上前に兆候を検知できると考え、破局的噴火に発展する可能性がわずかでも存するような事象が確認された時点で直ちに適切な対処をおこなう」といっています。
つまり「数十年以上前に巨大噴火の兆候を検知できる。モニタリングを徹底し、前兆を検知したら、核燃料を安全な場所へ移送する」と主張しているわけですが、どう思われますか。
■破局噴火の検証
石原 火山影響評価ガイド制定時には、“破局噴火の前兆現象の把握から噴火に至るまでの期間が数十年ほどある”との科学的に検証されていない前提がありました。
私たち火山学者はこれに異議を唱えたわけです。鹿児島地裁決定も次のように疑問を投げかけています。「破局的噴火の前兆現象としてどのようなものがあるかという点や、前兆現象が噴火のどれくらい前から把握が可能であるかといった点については、火山学が破局的噴火をいまだ経験していないため、現時点においては知見が確立しているとはいえない状況にある」
この認識は、だいたい正しいと考えます。
ちなみに、19世紀にインドネシアで発生した破局噴火に相当する巨大噴火の記録によれば、兆候としての小中噴火の発生開始から巨大噴火に至るまでの期間は約3年です。
すでに述べたように、火山影響評価ガイド自体に不備があるうえに、九州電力は、科学的とはいえない前提をもとに対策を取ると主張しているわけです。しかもその対策の計画は、鹿児島地裁決定も認めているとおり「現時点では未策定」です。
にもかかわらず、“九州電力が川内原発を再稼働しても火山の影響からは安全である”と「決定」が結論づけたことは、火山の影響から原子炉施設の安全性を確保するためにあるはずの「火山影響評価ガイド」の目的から外れているといわざるを得ません。
──「決定」では、「カルデラ火山の破局的噴火の活動可能性が十分に小さいとはいえないと考える火山学者も一定数存在するが、火山学会の多数を占めるものとまでは認められない」と述べています。どう思われますか。
■可能性言及せず
石原 「決定」は日本火山学会が昨年11月に出した「巨大噴火の予測と監視に関する提言」のなかで、「破局的噴火」の可能性に言及していないことを理由に、このような見解を示しています。
しかし、火山学会の多数が「巨大噴火の可能性は十分に小さくはない」と考えているがゆえに、火山学会に臨時に設置した原子力問題対応委員会がこの「提言」を取りまとめたことは、「提言」のタイトルを見ても明らかです。
(「しんぶん赤旗」2015年5月3日より転載)