東日本大震災・東京電力福島第1原発事故から3月11日で4年、事故収束の見通しは依然立たず、福島県では約12万人が避難生活を強いられています。そのなかで国と東電が昨年暮れ、営業損害賠償打ち切りの「素案」を突然発表。業界などから「倒産する会社が続出する」と怒りが噴き出しました。運動の広がりの中、国と東電は今月末までとしていた避難指示区域外の賠償打ち切りは見送ったものの、「素案」は撤回していません。賠償打ち切り撤回へ、これからが正念場です。 (福島県・野崎勇雄)
■営業先の見通し立たず
「放射能汚染で仕事を失ったのが一番のダメージで、それが復活しない。しかも帰還困難区域だから先の見通しもつかない。輸人材に押されて林業が大変な上に仕事を奪われ、来年で営業損害賠償打ち切りの話を聞いたときはがくぜんとした」
双葉地方で林業会社を経営していた君島勝見社長(浪江町、76歳)は、避難先の借り上げ住宅で怒りを抑えながら語りました。
君島さんは原発事故前、立木を入札購入した国有林(3ヵ所)と、所有する民有林(10力所)で一般木材やパルプ材を生産販売し、造林・治山工事を請負ってきました。正職員10人(事務職2人含む)のほか臨時職員三十数人、多いときには45人にのぼりました。
「国有林の入札権を得たのが45年前。有限会社にして22年です。山に手を入れて山を守る。手を入れれば木は育ちます。植えてから30年たてば間伐でき、40年たてば伐採できる。自分なりに楽しさ、面白さがあった。山を手入れできなくなったのが残念でならない」と君島さん。
「賠償打ち切りはまったく納得できない。加害者責任がある東電や国は、われわれ業者をどう見ているのか」と話しました。
観光業界も原発事故の影響で客が激減しています。
同県二本松市の岳温泉観光協会によると、大震災・原発事故前年の10年度と比較した一般客は11年度58・2%、12年度73・8%、13年度74・4%という割合。大きな落ち込みです
福島市・飯坂温泉観光協会の畠隆章会長は「事故から4年になるが以前の状況には程遠い。県は入湯税から客数を推定しているが、警察や復興関係、昨年から除染作業員が安い料金で泊まっている旅館もあり、その中身
を精査してほしい。一般客は平均すると以前の8削弱。私のところでいうと1割減で億単位の減収。賠償金打ち切りになれば旅館でも立ち行かなくなるところが出てくる」と語ります。
また、畠氏は「東電は何をもって風評被害が無くなったと判断しているのか。来年回復できるとは思えず、今打ち切るのは乱暴だ。私たちも営業力をしているが限りがある」と強調。食材費など物価や電気代の値上げ、昨年4月からの消費税増税の影響も大きいと指摘します。
同温泉「はなたき」の山口義郎支配人は「風評被害は収まっていない。春のツアーも集客できない。私たちは12年3月まで賠償請求し、その後は自力で全従業員一丸となって営業努力しているが、賠償打ち切りで影響が出るのは明らかだ。なんらかのバックアップがあってこそ復興できる。それがなくなれば(復興の)柱が折れる」と語ります。
■撤回を求める声 広がる
営業損害賠償打ち切り方針は年も押し詰まった昨年12月25日、突然示されました。避難指示区域内の賠償は事故から16年2月までの5年分が対象で、その後は未定でしたが今回、それ以後の打ち切りを明確にする案を出しました。避難区域外の賠償については「減収と原発事故との相当因果関係」がある場合は16年2月まで、「相当因果関係な
し」と判断すれば今月で打ち切るとする案です。
大阪市立大学の除木理史(よりもと まさふみ)教授は、国と東電が営業損害賠償打ち切り案を出したことについてこう指摘します。
「国は、2011年12月に事故収束宣言を出し、早くも賠償打ち切りをめざして動き始めた。それ以降、加害者主導の賠償打ち切りが進行している。今問題になっている営業損害の賠償打ち切りも、その流れのなかでとらえる必要がある。求められるのは、被害実態を踏まえた必要な賠償の継続と、賠償基準に被害当事者の声を反映させることだ。復興にあたって地域密着型商工業が果たす役割をきちんと評価することも大事ではないか」
国と東電の賠償打ち切り提示に対し、いっせいに批判が噴き出ました。県商工会連合会(轡田治会長)は1月21日、「到底納得も承服もできる内容ではない」と意見書を提出。そのなかで区域内外ともに損害賠償を継続し、事故収束の見通しが立った段階で改めて賠償の終期を検討すべきだと強調しています。JAなど35の農林・畜産業の団体で構成する賠償対策協議会も13日の総会で打ち切り反対を決議しました。
福島市、郡山市、南相馬市、桑折町、飯舘村の臨時議会で、打ち切り撤回を求める意見書を全会一致可決。内堀雅雄県知事を会長とする「オール福島」の県原子力損害対策協議会も見直しを要請するなど拡大の一途です。20日には、県旅館ホテル生活衛生同業組合・女将の会24人が上京し、家族旅行や教育旅行などが以前の水準に戻るまで賠償継続するよう東電に要請しました。
日本共産党も加わるふくしま復興共同センターは、1月16日の国と東電との交渉につづき、13日には国会総行動を繰り広げました。22日には業者、農民など幅広い層に呼びかけ、打ち切り撤回、福島切り捨てを許さないと緊急集会を開きました。
日本共産党福島県委員会と同県議団も藤野保史衆院議員とともに5日、打ち切り案提示への抗議と撤回を東電に求めました。県内各地の日本共産党組織も各団体と懇談し、共同を申し入れるなど力を尽くしています。
国会では、9日の参院決算委で倉林明子議員が「素案」撤回を求め、高橋ちづ子衆院議員も被災者を支える賠償を求めつづけてきました。
営業損害の賠償打ち切り方針は、「事故も被害も終わった」として福島県民すべて、県内全域の賠償を打ち切ることにつながる宣言というべきものです。これを突破口にした「福島切り捨て」は許さないとの声が強まっています。
(「しんぶん赤旗」2015年2月26日より転載)