「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟は、東京電力と国を被告として、原発事故の法的責任を明らかにすることを裁判の目的の一つにしています。福島地裁で1月20日に開かれた第10回口頭弁論で、核燃料化学が専門の元中央大学教授の舘野淳(たての・じゅん)氏は原告側証人として、国が福島原発事故のようなシビアアクシデント(過酷事故)の対策を怠ったことを述べました。詳報します。
(三木利博)
舘野氏は、1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故、86年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故という二つのシビアアクシデントに対する、欧米と日本の対応を比較しました。
■過酷事故対策を怠る
欧米は、原発は安全ではなく、たとえ設計基準を強化しても、それを超える事故─シビアアクシデントは起こり得ることを前提に「安全対策が立てられるようになった」と指摘。対照的に日本では、チェルノブイリ原発事故後の調査特別委員会の報告で「住民が避難しなければならないような事態に至るとは考えられない」などとして、事故を軽視したといいます。舘野氏は「シビアアクシデントが起こると考えず、対策を怠った」と述べ、日本政府の無責任な対応を批判しました。
さらに元旧通産省職員の論文や、「政府事故調」の調書記録で当時の原子力委員会委員長、旧経済産業省原子力安全・保安院の原子力安全基準統括管理官がそろって、日本のシビアアクシデント対策が諸外国から大きく遅れ、対策を規制要求にすることに電力会社の抵抗が大きかったと発言していることを紹介。規制されなかったのは「(規制当局が)電力会社との関係をおもんばかった『政策的』判断に基づくものだった」と指摘しました。
■過去にも電源が浸水
今回の事故では、福島第1原発1〜4号機の非常用ディーゼル発電機と配電盤のほとんどが、構造的にも弱く水密性が低いタービン建屋地下に設置されていたため、津波で地下に流れ込んだ海水をかぶって機能喪失し、全交流電源喪失になりました。また除熱のための海水系ポンプがすべて機能喪失。その結果、冷却機能を失い炉心溶融に至っています。
同原発の吉田昌郎所長(当時)が「政府事故調」の調書で触れている、91年の1号機の事故にも言及しました。事故はタービン建屋地下の地中にあった配管が損但し、そこから漏れた海水で非常用ディーゼル発電機が浸水し、機能喪失したというものです。吉田所長は調書で「日本のトラブルの1、2位を争う危険なトラブルと思う」と述べています。
舘野氏は、吉田所長が危険なトラブルと証言しているのは「非常用ディーゼル発電機が水をかぶりショートすれば、外部電源喪失と重なった場合、全交流電源喪失が発生することになると考えた」からだと指摘しました。
東電が全交流電源喪失などもまともに検討しなかったのは、その発生確率は十分低いとする国の指針が原因だと強調。東電は、それをいいことに、対策に費用がかかる安全よりも利益を優先させたといいます。
さらに2006年に、全交流電源喪失の危険性で具体的に政府を追及した日本共産党の吉井英勝衆院議員(当時)の国会質問について「福島原発事故を予言したような的確な指摘を行っている」と語りました。
舘野氏は、今回の事故を防ぐための措置として、海水ポンプや非常用ディーゼル発電機を水から防護する対策が必要だった、と述べました。
証言が終わると、潮見直之裁判長は舘野氏に対し、国から提出された、1991年の1号機海水配管漏えい事故の報告書を読むよう求め、「事故の状況を聞きたい」と要望しました。
(「しんぶん赤旗」2015年1月26日より転載)