日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 水素爆発防止できるのか 川内・高浜両原発・・新規制基準すら満たさず/旧原子力安全委 元技術参与・滝谷紘一さん

水素爆発防止できるのか 川内・高浜両原発・・新規制基準すら満たさず/旧原子力安全委 元技術参与・滝谷紘一さん

suisobakuhatu 原子力規制委員会が、九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)1、2号機について、規制基準に適合したとする審査書を決めたことに続いて、関西電力高浜原発3、4号機についても規制基準に適合したとする、「審査書案」を示しました。安倍政権は、これをテコに住民の意見を無視して、再稼働への準備を進めています。旧原子力安全委員会事務局元技術参与の滝谷紘一さんは、両電力会社の「溶融炉心・コンクリート相互作用」に対する対策は有効でなく、「水素爆発」防止の基準を満足していないと指摘しています。審査の問題点を問き

ました。

(聞き手 松沼環)

 ・・規制基準での水素爆発防止はどのようなものですか。

 滝谷 新規制基準では重大事故(過酷事故)の拡大を防止する対策を、各電力会社に求めています。炉心が溶融し原子炉圧力容器が破損した場合に、放射性物質を環境中に大量に放出させないために、圧力容器を覆う格納容器の破損を防止する必要があります。格納容器破損を防止するために必要とされる対策が、「水素爆発防止策」や「溶融炉心・コンクリート相互作用抑制対策」です。

 東京電力福島第1原発事故では、水素爆発で1、3、4号機の原子炉建屋が大破しました。

 水素爆発の中でも、火炎の伝播(でんぱ)速度が音速を超える「水素爆ごう」が格納容器内で発生すると、壊滅的破損が生じる恐れがあります。規制基準は、水素爆ごうの防止を求めており、その判断基準を水素が空気中の13%以下、または酸素が5%以下であることとしています。

 ・・水素爆発と溶融炉心・コンクリート相互作用はどんな関係にありますか。

 滝谷 過酷事故時に事故発生直後から最も水素発生量が多いのは、圧力容器内でのジルコニウム・水反応によるものです。核燃料の被覆管に用いられているジルコニウム合金が高温で水と接すると、水が分解されて水素が発生します。

 事故が進展して圧力容器が破損し、溶融炉心が格納容器内に落下すると、溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)により水素が発生します。溶融した高温の炉心がコンクリートと接触すると、コンクリートが熱分解され、金属と反応、水素や一酸化炭素が発生するのです。水素爆発を防止するためにもMCCIの抑制が重要です。また、MCCIが継続すれば、溶融炉心が格納容器を貫通する恐れもあります。

 九電も関電もMCCI抑制策は、格納容器内に注水し、圧力容器が破損し、溶融炉心が格納容器内に落下する時点で十分な水量を確保するという方針です。

■大量発生水素の素早い処理は無理

 ・・では、電力会社は、どんな対策や想定をしているのですか。

 滝谷 水素爆発防止策の有効性を評価するため、九電も関電も、格納容器内の水素濃度の変化を、解析コード(コンピューター計算プログラム)を使って評価しています。規制委の審査ガイドに従って、圧力容器で全炉心のジルコニウム量の75%が水と反応して水素を発生し、さらに圧力容器外でのMCCIによる水素の発生も考慮します。

 九電と関電は、それぞれ格納容器内の水素濃度を下げるため2種類の設備を設置するとしています。一つは触媒式の水素再結合装置。しかし、単位時間あたりの処理能力が低く、過酷事故で短時間に発生する大量の水素を素早く処理することは期待できません。

 もう一つは、電気ヒータで水素を燃焼させるイグナイタという装置。信頼性が乏しく、解析には反映されていません。

 このため水素濃度の解析結果は、反応するジルコニウムの量と格納容器の大きさでほぼ決まります。その結果、MCCIによる水素発生が無視できるほど少ない場合には川内原発の格納容器内での水素濃度は最大で9・7%、高浜原発では同11・5%。いずれも水素爆ごう防止の判断基準を下回るというものです。

 ・・解析や条件の不確かさを考えると、大きな問題があるのではないですか。

 滝谷 九電や関電は水素爆発防止策において、MCCIを不確かさの1つとして扱っています。

 九電は、MCCIの不確かさに考慮して川内原発の全炉心のジルコニウム100%が反応した場合でも水素濃度12・6%であり、爆ごうには至らないとしています。

 一方、関電の高浜原発では、解析コードを用いてMCCIを評価した結果、炉内で反応する75%のジルコニウムの他に6%がさらに反応し、格納容器内の水素濃度は12・3%になります。

 しかし、高浜原発で川内原発と同じように100%のジルコニウムが反応したとすると水素濃度は推定で14・8%となり、水素爆ごう防止基準を超えて、基準に不適合となります。

■加圧水型に共通・・審査やり直しを

 ・・他にも問題はありますか。

 滝谷 旧原子力発電技術機構が2003年に発表している研究開発の事業報告書には「溶融炉心─コンクリート反応が終息せずに継続した場合には、ほかの金属の反応も含めて全炉心ジルコニウムの100%を超える量が反応することもあり得る」と記されています。ジルコニウムのみに限定した議論は不十分です。

 さらに、手動で行う注水の遅れに対する検討も不十分です。

 最もMCCIの影響が懸念されるとする事故想定では、川内原発も高浜原発も、約19分で炉心溶融、約1時間30分で圧力容器が破損すると評価しています。いずれも約49分から手動での格納容器への注水を開始できるとしていますが、過酷事故時に本当に想定通りにできるのでしょうか。注水が遅れた場合、MCCIがどうなるのか検証されていません。これらの問題は加圧水型原発すべてに共通することです。川内、高浜原発の審査はやり直すべきだと考えます。

(「しんぶん赤旗」2015年1月25日より転載)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です