第3次安倍音三内閣は、発足当初から原発再稼働への策動を強めています。原発推進は、「アベノミクス」(安倍政権の経済政策)の「成長戦略」の柱。「原発ゼロ」を求める世論に逆らうものです。(金子豊弘、矢守一英)
■財界が圧力
原発推進を求める財界は、発足したばかりの第3次安倍内閣に要望をつきつけました。
経団連(榊原定征会長)は「新内閣に望む」の中で、「安全性が確認された原子力発電所の再稼働プロセスの加速」を求めました。日本商工会議所(三村明夫会頭)も「安全が確認された原発の再稼働」を求めました。
今年(2014年)4月3日のこと。紀尾井町の日本料理店「福田家」で財界人による安倍首相を囲む会が聞かれました。経団連の今井敬、奥田碩、御手洗冨士夫各名誉会長らが参加。この席で安倍首相は、「川内原発の再稼働を絶対応援する」と「決意」を示していました。九州電力川内原発を突破口に、再稼働を一気に進める狙いを語ったのです。
安倍政権は、4月11日には「エネルギー基本政策」を閣議決定し、原子力を「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である」と位置付けました。「アベノミクス」の第3の矢の政策をまとめた「日本再興戦略」(改定版・6月24日決定)では、「安全性が確認された原子力発電の活用」をうたっていました。
第3次安倍内閣の初閣議後に記者会見した宮沢洋一経済産業相は、原発を含めた電源構成の数値目標を早期に策定する方針を改めて強調しました。原子力産業の業界団体である日本原子力産業協会(会長・今井敬経団連名誉会長)は、総発電量に占める原子力の割合を最低でも15%との数値を示し、原発を永久に使い続けるよう圧力をかけています。
■交付金を重点化
安倍政権は、原発の再稼働を認めた自治体に「電源立地地域対策交付金」を重点化し、停止したままの自治体への配分を減らす方針です。再稼働を認めた自治体を財政的に優遇することで、自治体に稼働への同意を迫る狙いがあります。
経済産業省の「総合資源エネルギー調査会原子力小委員会」がまとめた「中間整理」では「(原発の)稼働実績を踏まえた(交付金の)公平性」を確保すると記述しました。
「電源立地地域対策交付金」は、国が発電所の設置や稼働を促すために自治体に払ってきました。2014年度予算では総額約987億円。原資は電気料金に上乗せされている「電源開発促進税」です。交付額は発電実績に応じて決まり、原発のある自治体に配分されます。
東京電力福島第1原発事故後は全国の原発が停止していますが、国は自治体の経済・雇用を下支えするとして、すべての原発が稼働しているとみなして交付しています。
「中間整理」はまた、古い原発を廃炉にする場合に「廃炉に見合う供給能力の取り扱いを含めたわが国の将来像」の明示化の必要性を強調。原発建て替えが検討課題であるとの認識を示しました。
■「温暖化」口実に
安倍内閣は、地球温暖化対策を口実にして原発を推進する姿勢を強めています。
原子力小委員会の「中間整理」では、原発は、運転時に温室効果ガスを排出しないため、温暖化対策に果たす役割は、「非常に大きい」と協調しました。その一方、温暖化対策のカギとなる再生可能エネルギーについては、「わが国は緑、太陽、風、水などの豊かな自然に恵まれているが、現時点では、そのエネルギーヘの転換が十分には行われていない」と否定的に描きました。
九州、東北などの5電力会社は、太陽光発電の急激な普及で送電網が不安定になるとして、再生エネの新規受け入れを今秋から中断しています。政府がまとめた対応策は、原発再稼働を前提に電力会社が必要に応じて再生エネ事業者に発電量抑制を要請できる期間を、現在の年30日から拡大することなどが柱です。原発への固執こそ、再生可能エネルギーの普及の障害となっているのです。
■海外に輸出
「世界における原子力利用が拡大し、特に近隣諸国で急速 な原発の拡張計画が進展する中で、これらの地域の原発計画に積極的に関与し、安全性を高めていくことはわが国の安全にも直結するものであり、極めて重要」。原子力小委員会の「中間整理」は、こう強調し原発輸出を積極的に進める姿勢を強調しました。実際、日本は現地住民が反対しているトルコなどへの原発輸出計画を次々と推し進めています。(表↓)
経済産業省が作成した資料(10月2日の第7回会合提出)には次のような文言が明記されています。
「国内の原子力発電所の安全運転を確保していくためにも、海外のプラント建設への関与を通じて、これまで蓄積してきた原子力技術・人材、競争力ある部品産業のひろがりを維持していくことが重要」
国内原発の運転を「確保していく」ために原発輸出は必要だとしており、再稼働と一体不可分の関係になっています。
一方、日本の原子炉メーカーは東京電力福島第1原発事故を受け、海外展開に躍起です。三菱重工は福島事故後に1700億円まで減った原発受注額を、海外進出を強めることで中長期的に5000億円に増やす計画です。
■理解へ教育
原発を「ベースロード電源」と位置付け、必要性を強調した「エネルギー基本計画」は、「世代を超えて丁寧な理解増進を図るため、原子力に関する教育の充実を図る」として原発教育を進める方針を明記しています。
今回の原子力小委員会の「中間整理」では「原子力の位置付けについて、国民に説得力のある議論を行っていく」ことが重要だと指摘。その上で、「子どもや若者も対象として、初等・中等教育の段階から草の根的な広聴・広報活動を実施していくべき」であるとしました。子どもたちが新たな「原発の安全神話」にさらされる危険があります。
(「しんぶん赤旗」2014年12月28日より転載)