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続く苦境 住居・雇用…国・栄電は責任果たせ・・福島大学准教授 丹波史紀さんに聞く

 

たんば・ふみのり 1973年生まれ。福島県大熊町復興計画検討委員長、浪江町復興計画策定委員、双葉町復興推進委員。ふくしま連携復興センター代表理事
たんば・ふみのり
1973年生まれ。福島県大熊町復興計画検討委員長、浪江町復興計画策定委員、双葉町復興推進委員。ふくしま連携復興センター代表理事

 東日本大震災・東京電力福島第1原発事故から3年7ヵ月がたちました。復興や生活再建の課題をどう見ればいいのか、福島県で被災自治体の復興計画に携わる福島大学の丹波史紀准教授に聞きました。

(本田祐典)

 

 原発事故と震災によって福島県から県内外に避難する人は、最大時の17万人から12万5千人になりました。

 一見すると復興に向かっているかのようですが、被災者の置かれた状況が改善したわけではありません。前向きな気持ちで、ふるさとへの帰還や生活再建をできているとは言いがたいのが実情です。

 大きな問題の一つが、住居です。ふるさとや自宅に長期にわたって帰れない人は、どこで生活や住居を再建すればいいのか見通しを立てられずにいます。

■不十分な対策

 この問題に十分な対策が取られていません。原発事故は自然災害ではないため、国の被災者生活再建支援金の対象外です。東京電力の財物賠償も、あまりに時間がかかっています。

 それでも被災者は、仕事の都合や子どもの学校などの事情でやむなく、生活再建の場所を選択せざるを得なくなっています。

 まだ不安を感じているのに、県外から帰ってきた人も少なくありません。避難生活の経済的困難や家族から離れての暮らしに耐えられないからで、幸せな帰還とは言えません。

 暮らしの再建にとって大切な仕事にも、難しい問題があります。

 私たち福島大学の災害復興研究所が取り組んだ双葉郡8町村の調査では震災による失業が男女ともありましたが、とりわけパートやアルバイトの女性が多く失業していまし

た。

 県内の有効求人倍率が高くても、除染作業などが中心で、こうした女性の雇用が戻ったわけではありません。

14-10-11tizu■要介護が急増

 高齢者のあいだでは、介護ニーズが急増しています。双葉郡と南相馬市、飯舘村では、要介護認定が震災前の30%増です。

 避難生活にともなう健康悪化に加え、避難で家族が離れ離れにされたことで、これまで家庭内で支えられてきたケア機能が低下し要介護度が高まったと考えられます。

 地域の復興も見通しが立ちません。安心して生活できる環境をいつ取り戻せるのか、誰にも分からないのです。

 大熊町、双葉町、浪江町の復興計画などをつくるのに携わってきましたが、不確定な情報が多すぎて、計画をつくりたくてもつくれないという思いを多くの自治体が持っています。

 原発の収束が見通せず、「不安定になればまた避難を強いられるのか」という不安がいつも横たわっています。

 放射線量が高い帰還困難区域の除染については、環境省がようやく方針を示し始めましたが、いつまでかかるのか分かりません。

■計画定まらず

 

原発事故の被災者が避難する仮設住宅=福島県いわき市
原発事故の被災者が避難する仮設住宅=福島県いわき市

 国は大熊町と双葉町に、除染で出た汚染土などを保管する中間貯蔵施設の受け入れを求めていますが、これも復興計画に大きな影響を与えます。大熊町でいえば、4人に1人が家を失います。拙速には決められませんが、決めないと町の計画が定まらない状況に追い込まれています。

 山積する課題に立ち向かうにはまず、国であれ、東電であれ、責任あるところが責任を果たすことが第一です。

 たとえば中間貯蔵施設の建設では、被災者のわがままで進まないというような国の姿勢がありました。解決の責任がある国がまず、住民らが失う住居や誇りをどうするのかを示すべきです。

 避難先の住居の確保については、2年前に成立した原発事故子ども・被災者支援法に盛り込まれましたが、いまだに制度化されていません。避難者が身を寄せている公営住宅などは、避難先の首長が1年ごとに延長を判断する不安定な状態です。

 東電も誠意ある賠償をせず、被災者が裁判を起こさなければならない状況にまで追いやっています。

 国や東電まかせでうまくいくわけではないので、自治体や住民自身が何をできるか考えることも大事です。

 浪江町では、住民側から復興計画を提案する動きがあります。大熊町の女性たちは避難先の会津若松市で会津木綿を使ってストールを作り、文化を発信しています。

 当事者が主体となって、戻りたいと思える町をつくる、生活を再建していくという認識が広がってきたことに注目しています。

 

 

 

原発事故3年7カ月 福島はいま・・被災者 心を病む人も/市立病院受診 自殺未遂180人超に

いわき市

14-10-11syourei 東日本大震災・福島第1原発事故による避難生活が長期化するなか、体調の悪化に加えて、心を病む人も少なくありません。福島県いわき市の「市立総合磐城共立病院」(828床)には自殺未遂者の搬送や受診が相次ぎ、診察にあたる医師は「尋常ならざる事態だ」と対策を訴えます。

 震災後、市立病院の精神科を受診した自殺未遂者は180人を超えます。このうち3割ほどに、何らかの形で震災・原発事故との関連がうかがえました。

 第1原発がある浜通り地域の救急救命センターは同院のみ。多くの被災者がいわき市に避難したこともあって、自殺未遂者の搬送などが集中しています。

 精神科の池本桂子医師は、「岩手、宮城両県との違いは原発の有無です。事故後、避難のストレスで被災者が苦しむのをずいぶん見てきた」と話します。

 福島県では、震災関連の自殺者が増え続けています(グラフ)。何が起きているのでしょうか。

 市立病院での診察から浮かび上がった、被災者が自殺を図るまで精神状態を悪化させた要因は、①疲労②ストレスによる不眠や抑うつ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)③避難生活による家族の離散④家や地域、コミュニティーの喪失⑤仕事や生きがいの喪失⑥アルコール依存・・など多様です。

 震災後は女性の自殺未遂者が、それまで多かった男性を上回り急増しました。ストレスのはけ口として家庭や職場で虐待された人が相次いで自殺を図った時期もありました。隠ぺいされている性犯罪被害を含め、こうした相談を聞く女性医師の不足が深刻です。

 また、中高年の男性は、自殺者のなかで占める割合が高くなっています。仕事や家などを失ったストレスを感じやすいうえ、より強い手段で自殺を試みる傾向があります。

 池本医師は、ボランティアや相談員などが被災者の話を聞くことで精神状態が改善する場合があると強調します。そのうえで、長期的には仕事や生きがいを取り戻す支援が必要だと指摘します。

 「被災者が何をしたいかという前向きな気持ちを聞き、その人らしさを支えないと自殺の予防はできない」

(「しんぶん赤旗」2014年10月11日より転載)

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