福島県矢祭町で猟友会東白川支部会員として猟をしてきて40年になる鈴木達男さん(71)は「豊かだった自然を元に戻してほしい」と「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟」の原告になりました。
■イノシシを汚染
東京電力福島第1原発事故後にイノシシの肉を検査すると1キログラム当たり800ベクレルを超える数値の放射能が検出されました。福島県の調査では最高同2万ベクレルに達したものもありました。
イノシシの肉は、ぼたん鍋などとして流通。低カロリー、高タンパク質、ビタミンや鉄分が豊富なことから、近年は、フランス料理のジビエとして人気となっていました。「豚肉の倍の値段がついた」と言います。
鈴木さんの仕事は大工。建築業が主だったことから、イノシシ肉販売についての実績を示す資料は保存していませんでした。東電は、資料がないことを理由に賠償請求しても支払わないのです。
野生鳥獣は、保護、駆除、狩猟の適正化をはからないと生態系を破壊します。農作物被害を広げたりします。
「イノシシは雪が苦手です。冬は温暖な浪江町や大熊町など沿岸部に移動した」といいます。
鈴木さんら猟友会は自治体からの要請で年間40頭近くイノシシなどの捕獲をしてきましたが、放射能汚染で食べられなくなり、猟をする人がいなくなりました。原発事故後は、イノシシの数が急激に増えました。
猟友会の先行きを心配しています。「高齢化で行動力が弱っています。猟は1人ではできない。10人ほどで組を作ってイノシシを包囲して捕獲します。人手が足りません」
■天然アユは禁漁
放射能は川も汚しました。矢祭町を流れる清流久慈川のアユやヤマメが汚染されました。「釣りは1年間自粛になりました。その後は放流したアユは釣ることが可能ですが、天然アユは今も禁漁です」
天然アユは下あごにある水圧や水流の変化を感じとるための器官の下顎側線孔(かがくそくせんこう)が左右対称に4個整然と並んでいます。放流したものは左右対称でなかったり、数が違っていたりして見分けられます。「釣り人はみんな知っていますから、天然ものは釣ったその堀で川に逃がします」
福島県の中通りの最南端に位置する矢祭町。福島第1原発から約80キロ離れています。「福島県のどの地域も安心して暮らせるところはなくなりました。『放射能、放射能』と脅かされて過ごした3年半」と振り返る鈴木さん。
「国民だけが責任を押し付けられている。山や川の自然の恵みを糧にして暮らしている者への賠償は無視されています。やったことに責任を取れと言いたい。自然と共存して生きていくためには完全に原状に戻させないとだめです」
(菅野尚夫)
(「しんぶん赤旗」2014年9月10日より転載)