紛争解決センターが和解拒否
東京電力は福島県浪江町による原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続き(ADR)集団申し立てにもとづく和解案を拒否しています。これに対して、同センターの仲介委員が、和解案提示の「理由補充書」を提示しました。東電に今月25日までに改めて回答をするよう求めています。同センターとして異例の対応です。
(阿部活士)
福島第1原発事故・放射能汚染で全町避難を余儀なくされている浪江町。事故による精神的損害賠償の増額などを求める町民約1万5000人が2013年5月29日、集団申し立てをしました。委任状をもとに町が代理人となる全国でも初めての事例です。
「机上の議論」
申し立てた趣旨は、大きく二つあります。
一つは「原発事故により町全域に高濃度の放射性物質を放出させ、住民の生活のみならず町全体を崩壊させた」法的責任を認め、真摯に謝罪することです。
二つは、中間指針(「原発事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」)の問題点の指摘と改善です。指針を策定した同センターの紛争審査会は「被害地市町村を視察せず、被害地住民からの聞き取りもなく、一般指針を机上の議論のうえに成立したもの」だと指摘しています。
なかでも、精神的損害(慰謝料)を自動車損害賠償責任保険(自賠責)における慰謝料(日額4200円)を参考に10万円と決定したことに「合理的な説明も実質的な根拠もない」としました。
この申し立てに沿うように、仲介委員は、浪江町中心部や沿岸部など4ヵ所を現場視察。年齢も避難先も違う7人の避難住民の聞き取りもしました。
仲介委員は3月に和解案を提示。浪江町は住民説明会を開き、和解案を受諾しました。
一方、東電は6月に和解案を拒否する回答をしました。おまけに、ホームページで、中間指針やその考えから乖離している請求などについては、「慎重に対応し、ADR手続きでも同様の対応をしている」と記載したのです。
これにたいし、同センターが機敏に反応。総括委員会が東電の対応を批判する「所見」を8月4日に発表しました。所見は、東電の姿勢が「和解仲介手続き自体を軽視し」、「賠償システム自体にたいする信頼を損なうもの」と批判しました。
集団和解必要
今回、和解を拒否する東電にダメを押す形で出された和解案理由補充書。東電の言い分を一つひとつ取り上げ、反ばくしています。
例えば、精神的損害賠償も中間指針でうたう月額10万円でいいとの言い分です。
補充書は、指針の慰謝料は、「最低限のもの」。「本件の具体的な審理を通じて、月額10万円では不十分であるとの心証を得た」
さらに、浪江町が代理になっている「集団的和解の必要性」について言及しています。
「原子力事故が発生すれば多数の被災者と事業者の間で紛争が発生することは予想されていた。大規模紛争を迅速に解決することは、当センターに課せられた責務である」
理由補充書は、こう結んでいます。
「本件のような審理方法及び和解案による増額に応じないのは、被災者の保護を目的とする原賠法のもと、原子力事業者の負うべき責務や社会的期待に反するものだ」
■紛争解決センターの和解について
原子力損害賠償紛争解決センターは、ホームページで、同センターの役割について、東京電力福島第1原発事故により被害を受けた方々の原子力事業者(東京電力)に対する損害賠償請求について、「円滑、迅速、かつ公正に紛争を解決することを目的として設置された公的な紛争解決機関です」と紹介。「〝東電に被害を申し出たが賠償されない〟などのほか、今回の事故で生じた損害の賠償全般について当センターに和解の仲介を申し立てることができます」としています。
(「しんぶん赤旗」2014年9月2日より転載)