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私たちの自然エネ アイデアつぎつぎ・・原発廃炉・温暖化防止のためにも

 農山村に豊富にある自然エネルギーを生かす取り組みが広がっています。太陽光発電だけではありません。住民ぐるみ、農協ぐるみですすめる地域を訪ねました。

(中沢睦夫)

14-08-26sihoro北海道士幌町 畜産バイオで発電・・農協が運営排 熱利用も

 畜産廃棄物のメタンガスを燃料にする発電システムもその一つです。北海道のJA士幌町農協がすすめるバイオガス発電システムは、酪農家の牧場ごとに設置しています。

多様な利点が

 士幌町は、大規模な畑作・酪農地帯の十勝地方にあります。酪農の牛から出る大量のふん尿を発酵槽に集めて発酵させます。ここで出るメタンガスを圧縮・爆発させて発電機を回します。発電機から出る排熱を利用した温水は、酪農の搾乳機洗浄用などに使います。

 メタンガス発生後の「消化液」といわれる有

機質の液体は、牧場や畑作農家の農場に散布します。固形物はたい肥になります。

 「悪臭もほとんどなくなるので、住民からの苦情がなくなりました。ふん尿の中に合まれる病原菌や寄生虫は発酵過程で死滅し、雑草の種子も減る。消化液は散布も簡単で、有効な有機質肥料です」

 発電システムの統括責任者となっているJA士幌町の西田康一畜産部長は、多様な利点を説明します。

 「農家は、毎日、発電システムの動きを記録します。当初は″事務作業が大変だ″との声もありました。このシステムでつくられた電気を北海道電力に販売して得られる収入があり、リース料を引いても1日に2万円程度の所得になるので、農家は手間を惜しみません」

 西田さんは、厳しい酪農経営を支える面も強調します。

 同システムは、JA士幌が建設し、酪農家に貸し出しています。

 200頭の乳牛規模では、建設費は1億5000万円から2億円かかります。維持費用も農協が負担し年間200万円前後といいます。

 バイオマス発電は、天候に左右される太陽光発電に比べ、安定した発電ができます。発電した電力は、再生可能エネルギー固定買い取り制度(FIT)により北海道電力に販売し、牧場内でも使います。

 バイオマス発電のFIT買い取り価格は、消費税抜き1キロワット時39円です。この価格が下がると、施設の減価償却ができなくなる問題点もあります。北海道電力への再生可能エネルギーの接続許容量が限界に達する問題もあるといいます。

「難しくない」

 発電機は、ドイツ製ですが、周辺施設は十勝地域の業者が開発したものです。保守・管理も地域でできます。開発メーカーの一つ「土谷特殊農機具製作所」の土谷雅明専務は、全国でシステム導入は可能だといいます。「北海道は積雪期間が長いので、消化液の散布期間が限られるために、消化液貯蔵槽は大きくなるが、本州地域では、小型でできる。建設費はもっと抑えられると思う」と説明します。

 バイオマス発電システムを視察した熱田正行さんは、千葉県匝瑳(そうさ)市の養豚農家です。他の畜産農家とともに同市で発電システムを提案しています。「メタン発酵の発電は技術的には難しくない。悪臭がない消化液やたい肥を水田に還元することを稲作組織と相談している。市や千葉県に必要性を訴えたい」と話しました。

 

14-08-26kinasa
「〝見える化〟が大事」。国道沿いにある薪ステーションで大日方さん(右)と宮沢さん=長野市鬼無里

長野市鬼無里地区 森林生かして燃料・・中山間地域再生めざす

 長野県長野市の鬼無里(きなさ)地区では、NPO法人が森林を生かした再生エネルギーの里づくりをすすめています。旧鬼無里村が長野市との合併となり、″行政の周辺化″と高齢化がすすむ中山間地域です。

「周りに資源」

 「家庭用として年間、灯油をどれくらい使っているかNPOで聞き取り調査したら、18リットルのポリタンク4万7000本分、換算すると8000万円も払っていた。ほとんどが石油ストーブと風呂。周りに森林資源があるのにと、考えてしまう」

 NPO法人「まめってぇ鬼無里」創設者の一人、大日方聡夫(おびなた・としお)理事は、2010年に燃料調査した結果が驚きだったといいます。大日方さんは、日大理工学部で教員を務め、帰郷。地域の人たちと協力してNPO法人を10年に設立しました。

 NPOは、化石燃料を減らし、持続可能な中山間地域の再生を目指します。話し合った結果、地域の木材を薪(まき)に加工するLLP(有限責任事業組合)・「鬼無里薪ステーション」を10年に立ち上げ、活動を開始しました。

 「薪の事業所という″見える化″が重要です。薪づくりの体験がある世代の人たちは興味をもって立ち寄ります」と大日方さん。

 鬼無里地区を走る国道沿いにある薪ステーションには、薪と丸太が積み上げられています。薪は、地域のストーブだけでなく、キャンプ場や薪にこだわるパン屋さんが利用しています。鉱泉の過熱用にも計画しています。

「モデル」提案

 資源の木材は、地域の森林組合から購入、長野市の公園整備の際に出た丸太も使います。搬送や薪割りには、数少ない若者たちや定年退職後の帰郷者が協力しました。その結果、時給1000円、のべ750時間の雇用が生まれました。

 小規模でも伐採・運搬できる〝自伐型〟の森林整備も進めます。

 大日方さんたちNPO法人は、「鬼無里モデル」を提案します。合併の弊害で自治意識の低下が生まれている″行政の周辺化″にたいし、再生可能エネルギー発電の固定価格買い取り制度も活用し、対抗して活性化しようとするのがその構想です。自給率100%の自然エネルギー化を目指します。柱となるのは木質燃料、小水力、太陽光の3種類です。

 小水力発電の施設は、水路の落差を利用し、行政の助成のもと試験的に設置されています。

 太陽光発電は、住民合意で荒廃傾斜農地を利用し150キロワットの発電量で計画しています。長野県の全県的組織「自然エネ信州ネット」の支援をうけます。

 鬼無里には、ミズバショウの群生地があり、春や秋には癒やしを求め数万人の観光客でにぎわいます。ほとんどがマイカーの日帰りです。大日方さんは、「ヨーロッパのように滞在型になれば、化石燃料の大幅削減になる」。″食によるおもてなし″が滞在につながるとして、郷土食、山菜料理中心の「食の文化祭」も4回開催しました。

 NPO法人は、39人の会員で構成します。地区外の人が多い賛助会員は160人います。吉田廣子事務局長は、「まず木質燃料できっちり形にし、電力は太陽光から始めます。いろいろアイデアはありますが、実績をあげてから広げたい」と抱負を語ります。

 説明を受けた長野県農民連の宮沢国夫事務局長は、「個々には自然エネルギーの取り組みはあるが、ここは地域ぐるみで広げようとしていることがすごい」と感想を語りました。

 

原発廃炉・温暖化防止のためにも・・村田武・愛媛大学客員教授の話

 危険かつ使用済み核燃料の処理ができない原子力発電は廃炉をしなくてはならない。代わりになるのは再生可能エネルギーだ。地球温暖化で異常気象を激しくさせる化石燃料は減らさなければならない。

 何回か視察したドイツでは7500基を超えるバイオガス発電施設があり、技術体系としては確立している。ドイツでは、電力供給とともに、発電時にでる熱を利用する地域暖房システムも広がっている。

 JA士幌農協は先行モデルだ。地元の製造業者が施設の建設やメンテナンス(修繕・維持)もしていた。都府県に導入する場合は「消化液」を牧草地以外に散布する場合がでてくる。水田農業とどう結びつけるかの研究が必要だ。

 厳しい酪農経営を支える意味でも、バイオマス発電と熱利用をすすめる必要がある。

 

企業中心の太陽光発電・・全体の7割に

 日本の再生可能エネルギー発電は、土地に設置した太陽光施設がほとんどです。バイオマスや風力、中小水力は今後の課題です。

 資源エネルギー庁のまとめでは、2012年7月の固定価格買い取り制度の導入後、14年3月までに895.4万キロワットの設備が運転を開始しました。そのうち、太陽光発電が871.5万%キロワット(97.3%)と圧倒的です。資金力がある企業中心の「非住宅」太陽光発電が全体の7割となる643.9万キロワットを占めています。

 バイオマス発電は12.2万キロワット、風力は11万キロワット、中小水力は0.6万キロワットだけです。

 2017年度までに全国約100地区でバイオマス産業都市をつくる国の補助事業が始まっています。

(「しんぶん赤旗」2014年8月26日より転載)

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