東京電力福島第1原発事故後、初めて「原発稼働ゼロ」となった今夏、改めて「原発はいらない」の声が全国に響いています。ところが、今後の原発政策について議論を進めている経済産業省の審議会では、原発推進ありきの強権的な議事運営が行われています。
安倍晋三政権は(2014年)4月、原発を「重要なベースロード電源」と位置づける「エネルギー基本計画」を閣議決定しました。これを受け、経産省は6月、総合資源エネルギー調査会に原子力小委員会を設置し、今月(8月)7日まで4回開催してきました。
福島事故後、原子力にかかわる審議会はインターネットで同時中継されてきました。しかし、今回の原子力小委は公開で開かれるものの中継はなし。審議会に直接足を運ばなければ、発言者の名前が分からない議事要旨が読めるのは約1週間後、議事録は約1ヵ月後という状況です。
7月11日の第2回会合で、複数の委員から中継を求める声が上がったのに対し、安井至委員長(製品評価技術基盤機構理事長)は「インターネット公開による透明性が全部プラスに働くわけではない。意見を言いにくい方がいれば公開しないことが適切だ」と拒否しました。
同小委の委員は、名うての原発推進論者として知られる山名元京都大学原子炉実験所教授や原子力業界の友野宏新日鉄住金副会長をはじめ、原発推進の立場の人物が多数を占めています。さらに、議決権のない専門委員には日本原子力産業協会理事長や関西電力副社長、高速増殖炉「もんじゅ」の開発を進めている日本原子力研究開発機構理事長、電力会社の労働組合でつくる電力総連会長の名前が並びます。
安井氏の″配慮″がどこに向けられているかは明らかです。第1回会合では、原発を推進する複数の委員から、原発の新増設についても議論のテーマとするよう求める声が上がりました。
第2回会合では、委員の吉岡斉九州大学教授が、自身も作成にかかわった原子力市民委員会の見解「川内原発再稼働を無期凍結すべきである」を配布しようとしたのに対し、安井氏が独断で不許可にしました。見解は、九州電力川内原発の危険性を指摘し「なぜ原発ゼロ社会を目指さないのか」と問いかけたものです。
吉岡氏が不許可にいたるやりとりをまとめた文書によれば、安井氏は、原子力小委はエネルギー基本計画に基づいて具体的方針を決めるためのもので「基本計画の妥当性についての議論を蒸し返すのは時間の無駄だ」と主張したといいます。
安井氏は、4月の原産協会の大会に出席した際、飛行機事故と比べ原発事故の確率はずっと低いとし「最近は高校で物理や確率をちゃんと学ばない。そういう人たちに説明するのは難しい」
「国民のレベルに合わせて物事を決めすぎるのはポピュリズム」などと発言していました。
国民世論を無視して原発再稼働を進める安倍政権の人選が、同小委の運営に色濃く影を落としています。
(佐久間亮)
(「しんぶん赤旗」2014年8月15日より転載)