「ビーッー」。記者らを乗せたバスが東京電力福島第1原発の3号機海側を通ると、線量計が高い放射線量を示す警告音を発し、赤いランプが光りました。7月8日、凍土遮水壁(凍土壁)工事現場が初めて報道陣に公開されました。この日、3号機海側では毎時598マイクロシーベルトもの空間放射線量を計測しました。作業員の年間被ばく線量上限の50ミリシーベルトに約83時間で達する線量率です。
防護服を着ているとはいえ、作業員の被ばくは避けられません。累積線量が増えれば、人員確保も問題となります。
過酷な作業現場
作業現場は過酷です。手袋を3重、靴下を2重につけ、放射線を遮へいする重さ6〜7キロのベストを装備。夏場は保冷剤入りのベストも着て、熱中症に備えます。
防護服や全面マスクで口も耳も覆われ、互いの声はくぐもります。6月に現場で意思疎通不足が原因で作業員がケガをする事故が起きた際、東電は「声をかけ合うことを徹底する」としましたが、掘削機の音も鳴り響く中、容易ではありません。
さらに、凍土壁工事の前に立ちはだかるのは、配管などの無数の地中埋設物です。原発建設から40年以上がたち、地下を掘ると図面で把握できていない埋設物にぶつかります。現場では、凍結管を入れる穴を掘る前に、「試掘」をして埋設物がないかどうかを確かめながら工事を進めています。
埋設物があると、本来1メートルおきに埋める凍結管の間隔が空いてしまい、「壁」がつながらなくなります。東電は、凍らない部分の遮水はセメントなどで補てんすると説明しています。
″東電ワールド″
汚染水問題は、事故収束に向けた最大の課題であり、国の総力をあげて解決しなければならないはずです。しかし・・。
「福島第1原発は、″東電ワールド″です。人の出入りもデータもすべて東電が管理し、国も自由に調査できない。東電はこれだけ深刻な事故を起こしたのに必要なデータを出さない。これでは、対策の評価も検討もできません」
福島県の廃炉安全監視協議会専門委員を務める柴崎直明福島大学教授(地下水盆管理学)はこう批判します。
東電が同協議会などに対しても、原発の地下の地層、地質がどうなっているかというボーリング調査の生データをなかなか出さないため、専門家らも十分に問題の把握、検討ができません。
国の原子力規制委員会は、凍土壁について東電の計画を事実上追認するにとどまっています。その一方で、全国の原発の再稼働の前提となる新規制基準適合審査に熱中しているのが実態です。
柴崎教授は、「国が前面に立つと言いながら、実際はまったくそうなっていません。国が東電に、必要なあらゆるデータを出させるべきです。データが出てこそ、英知を結集することが生きてきます」と話します。
(おわり)
(「しんぶん赤旗」2014年8月9日より転載)