日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > “福島に生きる”原発と命どっちが重い・・片平ジャージー自然牧場主 片平芳夫さん(68

“福島に生きる”原発と命どっちが重い・・片平ジャージー自然牧場主 片平芳夫さん(68

放牧できなくなった牧場の除染方法を研究する片平さん
放牧できなくなった牧場の除染方法を研究する片平さん

 イギリス原産の乳用種ジャージー牛を自然放牧で育ててきた福島県相馬市の片平芳夫さん(68)は、自然を相手に営む生業(なりわい)にとって「水と空気と大地を汚染されては、人間は本来生きていけないはずなのに」といいます。

 東京電力福島第1原発の事故によってもたらされた「きわめて不条理で、非情ともいえる深刻な被害に激しい憤りを覚えている」といいます。

 片平さんは、27歳のときに脱サラして阿武隈山系の北部に位置する同市玉野の山に単身入植しました。国土の7割以上を山が占める日本。その山を有効に活用するには、放牧利用しかないと確信し、狭い牛舎に閉じ込めて穀物を与える近代酪農よりも、山の自然をそのまま生かして環境に負荷をかけず、生態系を守る放牧酪農にこだわって40年間やってきました。

 片平さんは、酪農と合わせてジャージー牛の牛乳で作った手作りのアイスクリームやソフトクリームを作り販売してきました。濃厚な味は「峠のアイスクリーム店」と評判を呼び、県内外から求める人々で列をなしました。「原発事故後は風評被害などで、お客さまは半分以下に激減した」と嘆きます。

 片平さんの牧場は、標高約500メートルで、そのなかには石の多い約30度の急傾斜地もあります。当然このような所の牧草地も除染の対象地ですが、現在の除染方法には表土を剥ぎ取るか、反転させるか、土をうなう(耕す)かです。今直面している悩みは、こうした厳しい地形の農地の除染には、いまだに国の除染方法も定まっておらず、3年たってもいっこうに除染が進まないことです。

 片平さんは、東京農大に牧場の一角を提供し、急傾斜地における牧草地の除染方法の実証試験に協力しています。道路ののり面緑化などで行われている「重層基材吹付工」を中心に、環境に与えるダメージをできるだけ少なくする除染方法を視野に入れつつ、土石流などの危険がある宅地の急斜面の裏山や、一部山林の除染にも応用できるのではないかと期待されています。

 「原発さえなければ」と書き残して命を絶った近くの酪農仲間の牧場の整理を手伝い、身に染みて人の命の重さを知った片平さん。「原発1基と人の命とどっちが重いか」と問いかけます。「俺は生きてがんばってみようと思います」といいます。「″お金″に偏重した現代の風潮に対してかけがえのない命が何よりも大切であるといった価値観が広く浸透する社会にならなければいけない」といいます。

 「国や東電とて一人ではたたかえない」と「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の原告に加わりました。

 山では落ち葉などが積もって1センチの土ができるまで100年も年月がかかると言われています。

 「原発事故は自然を長期にわたって破壊し、地域社会から人を奪い、人々を分断し、再生不能にまでしてしまう悪質な犯罪とも呼べるものです」と語る片平さん。夢は諦めません。「山を拓(ひら)く術(すべ)を次世代の若い人たちに継(つ)なぐこと」と、遠い先を見つめています。  (菅野尚夫)

(「しんぶん赤旗」2014年8月4日より転載)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です