原発の新しい規制基準が施行されてから7月8日で1年になりました。審査などを通じて、規制基準の問題点がさらに明らかになっています。
各地で最大の問題となっているのが、原子力災害に対する地域防災計画が自治体任せで、規制基準に一切位置づけられていないことです。
東京電力福島第1原発事故の被害の実情を反映し、原子力防災計画を策定する範囲が原発から30キロ圏に拡大しました。しかし、実効性のある防災計画、特に入院患者や障害者などの要援護者の避難計画の策定は各地でできていません。
そんな状況にもかかわらず、規制委の田中俊一委員長は、地域防災計画の評価は「(規制委の)仕事として位置づけられていない」と繰り返し、地域防災計画の不備や実効性に関係なく審査は進められています。
国際標準を逸脱
しかし、国際原子力機関(IAEA)が示す原発の安全確保のための多重防護の考え方は、第4層がシビアアクシデント(過酷事故)対策、第5層の防護の中に、避難計画が位置づけられています。田中委員長も就任当初、規制の枠組みについて「防災計画まで入っていないと本当の安全確保の国際的な標準になりません」と認めていたのです。
また、米国では、1979年のスリーマイル島原発事故後、米国原子力規制委員会が緊急避難計画を規制の対象にしています。避難計画が実現不可能などの理由で営業運転に入れずに廃炉になった原発もあります。
事故が起きた際の避難計画を問題にしない規制基準では、住民の安全は守れません。
福島第1原発事故から、3年4ヵ月になろうとしていますが、いまだに収束しておらず、事故の原因究明も終わっていません。そんな段階で作られた規制基準が、事故の教訓を踏まえたものとはなり得ないのは明らかです。
「世界で最も厳しい」などと政府は宣伝していますが、規制基準は、既存の原発を廃炉にさせないための基準です。福島第1原発事故では、格納容器が壊れて大量の放射性物質が環境へ放出されましたが、格納容器に対する新たな機能を要求していません。
さらに福島第1原発で解決のめどが立たず、大きな危険をはらんだ、汚染水にたいする対策も、基準でなんら問題にしていません。
従来の基準より後退した内容もあります。以前は原発の設置許可の際には、一定の事故想定に基づいた敷地境界の被ばく線量が、ある基準以下になるかどうか確認していました。
しかし、福島原発事故のような過酷事故を想定すると、「敷地の線量を必ず何ミリシーベルト以下に抑えなさいというのは現実的でない」として、評価することすら求めていません。住民を被ばくから守ることを軽視しています。
責任の所在不明
田中委員長は、審査に合格しても「絶対安全とは申し上げていない」などと発言し、再稼働に関しても「(規制委は)関与しない」と繰り返しています。
一方、政府は規制基準を「世界で最も厳しい基準」などと持ち上げ、政府のエネルギー基本計画の中で、規制委によって基準に適合すると認められた場合には、「その判断を尊重し」原発の「再稼働を進める」と表明しています。
再稼働の判断に関して、政府と規制委が責任を押し付け合っているのです。こんな状態で再稼働などとんでもありません。
人災の側面を放置・・新潟大学名誉教授(地質学)立石雅昭さん
原子力規制委員会が発足して10カ月で新規制基準を決めましたが、そのことがそもそも拙速だったと思っています。福島第1原発の検証が、不十分なまま策定が進みました。私が参加している新潟県の委員会の議論を聞いても、福島の事故がなぜあのような過酷事故に至ったか、いまだに明らかでない点がいくつもあります。
また、基準はもっぱら、技術的な面に偏したものです。事故が起こった最大の要因、人災の側面については一切ほおかむりする形でつくられています。
危機管理体制や規制機関のあり方だとか、人災としての側面を放置しているところに危惧を感じています。
そこがはっきりしないために、事故が起こった時の自治体の果たすべき役割が従来のままで、住民の避難計画も自治体任せになっているのです。規制委や政府の役割もあいまいなままです。
このため新しい基準に適合しているからといって、事故は起こりえるし、起これば住民の被ばくは防げません。
原発の新規制基準・・
東京電力福島第1原発事故を受け、電力会社の自主的取り組みだった重大事故対策を義務づけ、津波対策を具体的に盛り込みました。地震対策では、原発の真下に活断層があっても露頭(地表に露出した断層)がなければ設置できるとしています。格納容器の破損を防ぐためのフィルター付きベント(排気)設備は、福島第1原発と同型の沸脱水型は早期の整備を求めるものの、川内原発のような加圧水型は5年間の猶予期聞か設けられました。
“世界最高は錯覚、うそ”・・専門家からも批判
新規制基準は「世界で最も厳しい水準」という安倍政権に、専門家から「非常な錯覚、無知だ」と厳しい批判が上がっています。
ことし4月、参院外交防衛委員会での参考人質疑で、原子力市民委員会座長の船橋晴俊法政大学教授は、日本共産党の井上哲士参院議員の質問に答え、「日本の新規制基準は欧州に比べ明確に劣っている」と指摘しました。
船橋氏は、欧州では原子炉がメルトダウン(炉心溶融)した際、溶け出した炉心を格納容器にためる設備(コアキャツチャー)を義務付けているが日本にはない。安全上重要な系統設備は、欧州では4系統なのに日本では2系統。欧州では旅客機の衝突にも耐えられる二重構造の格納容器を求めているのに日本ではやっていないことなどを紹介し、次のように言いきりました。
「これを世界最高水準だというのは非常な錯覚、あるいは無知、あるいはうそをついている。そういう言葉は政府の関係の方に使ってほしくない」
(「しんぶん赤旗」2014年7月10日より転載)