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憲法は再稼働認めない・・人権保障 原点から告発

関西電力本店前で大飯原発3、4号機の運転差し止めを訴える人たち=5月22日午前、大阪市北区
関西電力本店前で大飯原発3、4号機の運転差し止めを訴える人たち=5月22日午前、大阪市北区

 日本国憲法は原発再稼働を認めていない・・。大飯原発(福井県おおい町)の3、4号機の運転を差し止めた福井地方裁判所判決は、政府が前のめりで進める原発再稼働にクサビを打ち込みました。歴史的な判決のポイントをみてみます。

人権保障原点から告発・・「国富の喪失論」を一蹴

 「原発ゼロをめざす上で画期的判決といえます。私たちの運動に憲法上の根拠を与え、大きく励ますものです」と語るのは、「原発をなくす全国連絡会」の長瀬文雄共同代表です。

 今回の判決は冒頭、憲法に保障された人格権(13条、25条)は「人の生命を基礎とするもの」「これを超える価値を他に見出すことはできない」と強調しています。この「人格権」が奪われる事態として、「大きな自然災害」「戦争」と並べて原発事故を置き、「(事故の)具体的危険性が万が一でもあれば、その差し止めが認められるのは当然である」と断じています。

 沖縄国際大学の井端正幸教授(憲法学)は「憲法13条は『人権保障の原点』とでもいうべき規定であり、立法、司法、行政などの統治機構に対して国民の基本的人権を最大限尊重することを求めています。これを真正面から論じたということは、人権保障の原点に立ち返って、原発の稼働・再稼働は許されないとしたものです」と解説します。

 判決は、電力会社の主張に関連し、原発の運転停止による「国富の流出・喪失」論について「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」と一蹴しています。

 また原発稼働がC02排出削減に資するとの言い分も、「福島原発事故はわが国始まって以来最大の公害、環境汚染である」「環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違い」と厳しく退けています。

 日本弁護士連合会は5月21日に発表した村越進会長声明のなかで、「福島第一原発事故の深い反省の下に、国民の生存を基礎とする人格権に基づき、国民を放射性物質の危険から守るという観点から、司法の果たすべき役割を見据えてなされた。画期的判決」だと高く評価しています。

想定超える地震に言及・・「楽観的見通し」を断罪

 判決は、耐震性をめぐって「基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない」と断じました。

 その根拠として、全国で20カ所にも満たない原発のうち4原発で、最近10年の間に5回も想定した基準地震動を超える揺れに見舞われた事実をあげ、自然にたいする「人間の能力の限界」に言及しました。

 一方、関電は大飯3、4号機が炉心溶融に至るかどうかの限界点の地震動を1260ガルと想定しています。判決は、それを超える地震動か来ないと科学的に想定するのは不可能だと断定。地震の過去のデータがきわめて限られている▽2008年岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7・2)で4022ガルが観測された▽07年の新潟県中越沖地震(M6・8)での伯崎刈羽原発1号機直下の岩盤の揺れが1699ガル(観測にもとづく計算値。当時の想定の約3

・8倍)だった・・などの具体的な事実を示しました。

 そのうえで判決は、地震大国日本での原発の重大事故の可能性を「現実的で切迫した危険」と指摘しました。

冷却機能に欠陥・・本質的危険を強調

15-05-23zu 判決では、原発の特性として発出されるエネルギーが極めて膨大である点、運転停止後においても冷却を続けなくてはいけない点を指摘しています。

 このことから原発では、冷却中に電源が失われるだけで事故につながり、いったん発生した事故は時の経過に従って拡大していく性質を「原子力発電に内在する本質的な危険」と強調しています。

 地震の際の冷やすという機能に欠陥があるとして、想定する最大の揺れ(基準地震動=700ガル)を下回る地震によっても外部電源と主給水の双方が同時に失われるおそれがあり、その場合「実際にはとるのが困難であろう限られた手段が功を奏さない限り大事故となる」と指摘しています。

 長年、原発の危険性を指摘してきた舘野淳元中央大学教授は「熱の制御が困難であるという本質的な問題点に目を向けた判決」と評価します。

日本は「立地不適」が結論・・250キロ圏内に列島すっぽり

  「大飯原発250キロメートル圏内に居住する166名に対する関係で、大飯原発3、4号機の原子炉を運転してはならない」・・。判決主文の第1項です。

 東京電力福島第1原発事故直後に原子力委員会委員長が首相に提出した「最悪のシナリオ」で250キロ圏内の避難を検討したこと、チェルノブイリ原発事故の避難区域も同様の規模であったことを念頭に、「この数字が直ちに過大であるとすることはできない」としています。

 政府は「原発8〜10キロ圏内」としていた原子力防災の重点地域の範囲を、福島第1原発事故を受けて「30キロ圏内」に拡大。自治体に避難計画を義務付けましたが、実効性ある計画づくりは困難です。

 建設中の大間原発(青森県大間町)の差し止め訴訟を起こした函館市の工藤寿樹市長も21日のコメントで、「福島第1原発事故の教訓を踏まえた判決で大きな意味がある。今回の裁判の内容を参考にして、改めて、頑張っていきたい」としています。

 日本列島の各原発250キロ圏内を地図に表すと、北海道の一部と沖縄県をのぞき、すっぽり入ります。

 日本に原発は「立地不適」。これが判決が導く結論です。

暴走安倍政権への警告・・判決を力にゼロ実現へ

 政府は、再稼働に向けた方針は「全く変わらない」(菅義偉官房長官)と言明しています。しかし、沖縄国際大学の井端正幸教授は「憲法13条を基軸にした判決は、原発事故を真摯に受け止めないで再稼働に走る安倍政権への警告というべきものです」と話します。

 日弁連の会長声明も「本判決を受けて、従来のエネルギー・原子力政策を改め、速やかに原子力発電所を廃止し・・原子力発電所の立地地域が・・自律的発展ができるよう、必要な支援を行うことを強く求める」とのべています。

 北海道函館市の工藤寿樹市長のコメントでも「なし崩し的に建設するとか、稼働するということは、住民としては決して、納得していないということを理解してもらわなければならない」としています。

 全国連絡会の長瀬氏は「この判決は、再稼働を推進しようとする流れを大きく変えるものです。この判決を力に全国で、原発のない日本・社会をめざしてより大きなうねりをつくりだしていきたい」と語っています。

(「しんぶん赤旗」2014年5月23日より転載)

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