原子力規制委員会は4月10日、原発1基当たり、炉心損傷頻度は1万年に1回程度、格納容機機能喪失頻度は10万年に1回程度、セシウム137の放出量が100テラ(1テラは1兆)ベクレルを超えるような事故の発生傾度は100万年に1回程度を超えないように、という「安全目標」を決定しました。規制委は、「安全目標」を設定し、確率論的リスク評価(注)などによって個々の原発の安全を評価し、原発の安全性を向上させると主張しています。「安全目標」をどうみるのか、長年、原発の危険性を指摘してきた元中央大学教授の舘野淳「核・エネルギー問題情報センター」事務局長に聞きました。
(聞き手・松沼環)
核・エネルギ一問題情報センター 舘野淳事務局長に聞く
福島第1原発事故では3基でセシウム137で100テラベクレルを超える大規模な放射性物質の放出が起きました。原発が日本で稼働してから約40年、現在50基の原発があります。原発の数がほぼ直線的に増えてきたことを踏まえると、このような重大事故発生頻度は、原発1基当たり1000年に3回となります。
事故3000分の1
つまり、規制委が決定した重大な事故の発生頻度100万年に1回とは、重大な事故の発生頻度を約3000分の1にすることを意味します。しかし、現在行われている規制基準の議論では、原子炉そのものの構造については考えられていません。新たな施設を付け加えるだけで、とても3000倍も安全になるとは思えません。
原発のようにリスク(危険性)のある技術は、原発が存在する限りリスクゼロとはなりません。原子炉ごとにリスク評価をして、「安全目標」と照らして対策を取っていくことは、リスクを低減するための手法としては有用性もあります。
しかし、歴史的に見れば、こういった手法で評価された原発の重大事故の頻度が、隕石に当たるより少ないなどと使われ、安全神話を補強しました。田中俊一委員長は「安全神話に陥らないため」にリスクの存在を認めた「安全目標」を持つべきと語っているようですが、むしろ、「安全神話」に新たな装いを与えることになりかねません。
確率論的リスク評価は、不確かさが大きい点でも注意が必要です。さらに、その結果については、立証が不可能です。ですから、科学的な装いをしていますが、科学ではない。電力会社などが都合よく使う余地が十分にあるのです。
稼働が前提に
問題は、なぜいま「安全目標」の設定を規制委が言い出したのかです。彼らの議論は、原発を使い続けることが前提となっています。甚大な被害をもたらすような事故を起こすリスクを内包した原発を使い続けるのか、社会はそれを容認できるのかという議論が必要です。現在日本で使われている軽水炉型原発には、熱の制御が難しいという、構造的な欠陥があります。その議論もなく、軽水炉に新たなお墨付きを与える理由づけをしているように思えます。
確率論的リスク評価
発生し得るあらゆる事故を対象に、その発生頻度と発生時の影響を評価し、全体の安全性評価やリスク要因を探る手法。