東京から電車で約1時間半。500~1000メートルの山々に囲まれた神奈川県旧藤野町(相模原市緑区)は今、新緑の季節を迎えています。
10年前に廃校になった牧郷(まきさと)小学校はアーティストたちがアトリエとして再利用しています。その一角に看板を掲げるのが「藤野電力」です。
いわゆる″電力会社″ではありません。活動の中心は、ミニ太陽光パネルを組み立てるワークショップです。約3時間で、誰でも組み立てられ、作った発電キットは持ち帰り、自宅でミニ発電所として使うことができます。
「北は気仙沼から南は沖縄まで。ワークショップは、89回になりました」と言うのは、中心になっている小田嶋電哲さん(40)です。
そのほか、イベントやお祭りに出かけ、太陽光発電による電源を供給。藤野地域の電力自給をめざして市民発電所作りにも取り組んでいます。
太陽光パネル組み立て南へ北ヘ
地元で暮らす小田嶋さんは、2年前まで都心に通うITコンサルタントでした。転機は2011年3月の原発事故。その6月、「こんなときに開くのか」と地元の芸術祭「ひかり祭り」をめぐって話し合われました。
「あんなことをして、つくっていた電気で暮らしていたんだと、ずしーんとして。そのとき、誰かが『じゃ、電気を自分たちでつくりゃいいじゃん』と。霧が晴れたような気がしました」
8月、ひかり祭りが無事、自家発電100%で成功したあと、被災地、東北のイベントに電気を届けるキャラバンに出発することになりました。仕事との両立は難しく、会社は辞めることに。
21日、奈良市の奈良公園で開かれた「アースデイ奈良」にも小田嶋さんの姿がありました。6組のカップルや家族が参加、太陽光パネルと蓄電バッテリーなどの機器をつなぎ、持ち帰りのミニ発電所づくりです。
ワークショップを主宰した岩沼奈都子さん(41)=奈良県大和郡山市=は、大飯原発再稼働反対の行動のなかで藤野電力を知りました。
「私も去年、(ミニ発電所を)作って持ち帰り、今は携帯やパソコンの充電に使っています。案外、簡単なんやなあって。太陽の恵みも実感しています」
ワークショップを通して、各地につながりが広がっています。
「(鹿児島県)奄美の加計呂麻(かけろま)島で自給暮らしをしたいという男性も参加しました。移住早々、台風で屋根が飛ばされ大変だったそうですが、元気に暮らしています。その彼が島でワークショップを企画し呼んでくれました」と小田嶋さんはうれしそう。そこに地元の建設会社が参加し、太陽光パネルは工事現場の仮設電源にちょうどいい、と。「そうか、そういう使い方もあるのかと発見でした」
小田嶋さんは「電気をつくる、ためる、使うを通して、その人の『何か』が変わっていく」と言います。
「一番、思うのは″楽しい″という経験をしてほしいことです。楽しさを知って生きる一人ひとりの小さな未来が集まって、大きな未来になることを願っています」
(君塚陽子)
(随時掲載)
【メモ】・・藤野電力は、「自然や里山の資源を見直し、自立分散型のエネルギーで地域の未来を考えていく」をコンセプトに2011年5月に設立。藤野地域に充電ステーションの設置も計画。メンバーは50人ぐらい。