日本政府はインドとの原子力協定締結へ動きだしました。安倍晋三首相は5月29日、シン首相との首脳会談で協定の「早期妥結」を合意する見通しです。首相は大型連休中にアラブ首長国連邦やトルコと原子力協定を締結しており、これら原発輸出の「トップセールス」の一環といえます。しかし、インドとの原子力協定には三つの重大な問題があります。
まず、いまだ福島原発事故が収束せず、多くの被災者を苦しめている日本政府・メーカーに原発輸出の資格はありません。
加えて、インドは核不拡散条約(NPT)未加盟の核保有国です。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)によれば、2012年1月時点で80~100発の核兵器を保有しています。
日本が原子炉や関連技術をインドに輸出し、原繋が稼働すれば、核兵器製造に適しているプルトニウムが生成され、結果としてインドの核開発に手を貸し、核軍縮・核廃絶への国際的な取り組みに逆行することになりかねません。
さらに、北朝鮮の核開発問題に否定的影響を与えます。米国など核保有国が北朝鮮やイランの核開発を阻止しようとする一方、インドを例外扱いすることは、どう見ても「二重基準」です。
NPT未加盟国のうち、米国が原子力協力を認めているのはインドだけ。北朝鮮はインドをモデルに、国際社会から「核保有国」として認定を受けようとしています。
背景に米国の戦略
インドは独立後、早くから核開発に着手し、1998年5月に核爆発実験を強行。隣国パキスタンの核実験も誘発し、日本を含む多くの国は両国への経済制裁に踏み切りました。
しかし、米国は経済成長著しいインドとの関係強化を図る立場から、2007年7月に原子力協定を締結。
「民生用」に限り、核燃料や原発関連技術を提供することで合意しました。さらに08年9月、原子力供給国グループ(NSG=日本など45カ国で構成)は米印協定を承認しました。
これにより、インドは他国から提供を受けた核燃料を「民生用」に回し、国産のウランを核兵器開発に回すことが可能となりました。
日本政府は「中国包囲網」形成などの理由で米国に追随。08年10月の日印安保共同宣言を契機に、インドとの原子力協力推進へとかじを切りました。(竹下岳)