安倍晋三首相とインドのシン首相は5月29日、首相官邸で会談し、共同声明を発表しました。東京電力福島第1原発の事故で停滞していた原子力協定交渉の再開で一致し、共同声明には「原子力協定の早期妥結にむけ、交渉を加速する」ことを盛り込みました。
原子力協定は、日本からの原発輸出の前提となります。安倍首相はすでに、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の両国と協定を締結。インドとの交渉再開は、原発輸出に前のめりになる安倍政権の姿勢を鮮明にするものです。
日本原子力産業協会の資料によると、インドでは現在、運転中の原発は20基。建設中7基、計画18基となっています。
インドは1998年に核実験をおこない核保有国となりました。
会談でシン首相は、包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准しない立場を改めて表明しました。
日印両国は昨年(2012年)6月、海上自衛隊とインド海軍間で初の共同演習を実施。シン首相は28日に都内で開かれた講演で、日印両国間の「防衛、安全保障対話、軍事演習、防衛技術の協力は、拡大しなければならない」と表明しました。
共同声明は、日印両国の軍事協力強化を盛り込みました。「共同訓練を定期的かつより頻繁に実施する」と明記。海上自衛隊が配備している水陸両用の救難飛行艇「US−2」のインド輸出に向け、合同作業部会を設けることを決定しました。
核軍拡・原発増設に手貸す・・日印原子力協定
日印両政府は、原子力協定の早期妥結に向け、交渉の加速で合意しました。
協定を締結すれば、唯一の被爆国として「核兵器のない世界」の先頭に立つべき日本、そして福島原発事故を経験した日本が、インドの核軍拡・原発増設に手を貸すことになります。日本の歴史に、重大な汚点を残しかねません。
被爆地の広島・長崎両市はすでに、協定反対を表明しています。広島市の松井一実市長は24日、「インドとの(原子力協定)交渉の再開は、被爆地として納得しがたい」と批判。「核兵器のない世界を目指す動きが確実に広がる中で、唯一の被爆国である我が国は、核軍縮・核兵器廃絶の先頭に立つ必要がある」と求めています。
菅義偉官房長官は29日の記者会見で、「(原子力の)平和利用の担保が当然の前提」といいました。しかし、インドはNPT(核不拡散条約)について、一部の国にのみ核保有を認める不平等条約であるとして加盟を拒否し続けています。
2007年に締結された米印原子力協定では、民生用原発はIAEA(国際原子力機関)の査察対象にするものの、軍事用プログラムは対象外になっています。事実上、インドの核軍拡を容認した内容です。日米原子力協定の締結に関わった遠藤哲也・一橋大客員教授は、「日印の協定が、米印より踏み込んで核軍拡を規制できるとは思えない」と指摘します。
29日に発表された日印共同声明では、北朝鮮の核開発について「懸念」を表明しています。しかし、一方でインドの核開発に協力しながら、他方で北朝鮮の核開発を批判できるのでしょうか。(竹下岳)