安倍晋三首相がインドのシン首相との会談で、中断している原子力協定の交渉を再開し、早期妥結を目指すことで合意しました。インドへの原発輸出を推進するためです。安倍首相は連休中に訪問したトルコやアラブ首長国連邦(UAE)などとも原子力協定を結び、原発輸出を推進しています。
東京電力福島第1原発の重大事故の収束さえできていないのに原発輸出に拍車をかけるのは、日本だけでなく世界の安全を無視したものです。核兵器保有国で核不拡散条約(NPT)に加盟していないインドとの原子力協力は核の危険を広げるうえでも重大問題です。
「原子力ムラ」の要望
安倍首相が進める原発輸出が、東芝や日立、三菱重工など日本の原発メーカーや電力会社など、「原子力ムラ」が進める“原発ビジネス”を後押しするものであることは明らかです。「原子力ムラ」の関係者が中心になり、ことし2月安倍首相に提出された「原子力から逃げず、正面から立ち向かう」よう求めた提言は、「原発輸出に対する政府の姿勢を明確化するのをためらうべきではない」とけしかけました。安倍首相が、アジアや中東諸国、インドなどと相次いで会談し、原発輸出やその前提となる原子力協力協定づくりに拍車をかけているのも、こうした「原子力ムラ」の要望に応えるためです。
1基建設するだけでも数千億円にものぼる原発は、原発メーカーなど「原子力ムラ」に巨額の利益をもたらすものです。アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)と連携する日立、GEと並ぶ世界的な原発メーカーだったWH(ウエスチング・ハウス)を傘下におさめた東芝、さらにフランスのアレバと手を組んだ国内最大の重機メーカー三菱重工はいずれも世界的な原発メーカーです。原発輸出など“原発ビジネス”の推進は、こうした大企業の利益を後押しするものでしかありません。
原発事故をかかえる日本の安倍政権が、原発メーカーなど大企業の要望に応え原発輸出を推進すること自体、許されないことです。東電福島原発事故は、原発はいったん事故を起こせばコントロールできない危険な技術であることを浮き彫りにしました。いまだ原因の究明も尽くされず収束や廃炉の見通しも立たないのに、国内での原発の再稼働や海外への輸出を推進するのは無責任そのものです。
安倍首相が推進して日本が売り込みを図っている国の中には、トルコのように世界有数の地震国もあります。原発が地震で被災し、大きな事故を起こせば、輸出した日本も責任を追及されかねません。政治的に不安定な国もあります。こうした国に原発を輸出し、事故やテロの危険性を高めることは国際社会からみて許されません。
被爆体験した国としても
とりわけインドは核兵器を保有し、NPTにも参加せず、軍事用の核施設については国際的な査察を拒否しています。アメリカはインドへの原発輸出を例外扱いしていますが、日本の原子力協力もこうした理不尽なアメリカの態度に追随し、核兵器開発を手助けする危険があります。原発輸出は悲惨な原爆の被害を体験した国としても、許されることではありません。
日本は原発を再稼働したり輸出したりするのではなく、撤退に向けてこそ役割を果たすべきです。