東日本大震災時の学校の津波被害を調査してきた研究グループが、南海トラフ大地震で被害が予想される東南海地域7県の小・中学校の防災状況をアンケート調査しました。調査にあたった数見隆生さん(東北福祉大教授・学校保健学)に聞きました。(笹島みどり)
東北福祉大教授 数見隆生(かずみたかお)さんに聞く
調査は2013年2〜3月、東南海地域7県(図)の沿岸部にある小・中学校を対象として実施しました。
調査の結果、回答した815校のうち9割にあたる735校が災害時の避難場所に指定され、うち43・5%がハザードマップ(被害予測地図)で津波の予測浸水域に立地していることがわかりました。
津波を想定し
3・11の経験からすると、予測浸水域にある学校はもちろん、想定外の沿岸部に立地する学校も含め、津波を意識した避難場所の見直しが強く求められます。
近隣に高台や高層ビルがないため避難場所とならざるを得ない学校もあります。特にそのような学校は被災時の「想定外」を徹底的に無くす取り組みが求められます。
例えば、10メートル級の津波が予測され、学校の高層階でも危険があるという場合、津波情報を早くキャッチし「時間が多少かかっても遠くの高台に避難しよう」などの判断が必要になります。
このような場合を想定すれば、児童の足で高台には何分かかるのか、近隣に学校より高い避難ビルはあるか等、学校教師が把握しようとなるでしょう。
地域と交流を
想定を突き詰める取り組みは学校だけではできません。
本来は行政が避難住民の対応や高台への避難ルートも含めて検討を進めるべきです。同時に学校側も受け身で引き受けるのではなく、子どもの命を守る立場を基本に、地域や行政と結びついていくことが大事になります。
2011年の3・11の被災を振り返ったときに、テレビ・ラジオなどから災害情報を得るだけでは、安全は守れなかったといえます。地震で電源がストップしたのです。行政からの情報である防災無線や消防関係筋からの通報が届かなかったりしました。地域の行政機関・消防団、長年住んでいる住民たちと、日ごろから交流を持ち、被災時の確認や合意づくりを徹底していく必要があります。
子ども主体に
調査から、子どもを主体とした防災教育が求められる状況が見えました。
「教科」や「総合」などの授業を通して「大きい地震がくるとどうして津波が押し寄せるのか」などの基本的知識を身に付けさせることが必要です。自然災害の威力を学び、本人の納得に基づき、学校外にいた場合でも主体的な判断で避難できる能力を育てることが、根源的な防災教育ではないでしょうか。
そのためにも、教師自身が防災教育の意識を高め、指導の能力を磨くことこそがいま必要なのではないか。防災教育は命の問題であるという自覚を教師が持つことで、子どもの避難能力が育つのだと思います。
津波防災にむけて
アンケート調査の主な内容(東日本大震災の津波被害調査から見えた課題をもとに作成。「調査研究報告書」より)
1 海・河川からの距離、海抜、校舎の高層の有無
2 ハザードマップで津波浸水域に入っているか
3 指定避難場所に指定されているか
4 近隣に高台等の避難場所があるか
5 津波を想定した避難マニュアルがあるか
6 津波を想定した避難訓練をしているか
7 保護者への引き渡しの想定と訓練をしているか
8 避難場所指定の場合、住民避難の想定や備蓄などがあるか
9 登下校時や夜間・休日に被災した場合の指導や訓練があるか
10 防災教育をしているか
11 災害時を想定した保護者との日常的連携があるか
12 地域防災行政・消防団との連携があるか
【アンケート調査の対象】
東南海地域7県(神奈川、静岡、愛知、三重、和歌山、徳島、高知)の海岸線、または大きな河川から4キロメートル内にある小・中学校1436校を対象に実施815校からの回答があり、回収率は57%
(「しんぶん赤旗」2014年5月2日より転載。図に加筆=山本雅彦)