再稼働の前提となる原発の新規制基準が7月8日、施行されました。北海道、関西、四国、九州の4電力は同日と12日、6原発12基について、新基準への適合審査を原子力規制委員会に申請しました。発表された申請書の概要だけを見ても、国民の安全より再稼働を優先する姿勢がみえます。
申請したのは、北海道電力泊原発1~3号機(北海道泊村)▽関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)▽同高浜原発3、4号機(福井県高浜町)▽四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)▽九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)▽同玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)。
特徴的なのは、新基準で設置を求めている施設を代替施設で済まそうとしている原発が目立つことです。東京電力福島第1原発事故対応で重要な施設となった緊急時対策所(免震重要棟)もその一つ。しかし、設置済みは伊方原発以外はありません。
軒並み2年先
泊原発は、2015年度上期に免震重要棟を設置する予定です。完成まで、代替施設を用意しますが、それさえ完成予定は14年3月。それまで、3号機用の緊急時対策所として、1号機の中央制御室側を整備するとしています。1号機を運転している時に使えないようなものまで対策に盛り込み、一日でも早く再稼働したい電力会社の意向を示しています。
九州電力は、玄海、川内の両原発とも免震重要棟の完成は15年度予定。それまで今年9月に完成予定の施設で代替。関電の大飯、高浜両原発も免震重要棟の完成は15年の予定。それまで1、2号機中央制御室近くの部屋を使用する予定です。
(「しんぶん赤旗」2013年7月15日より転載)
連動震を無視
各原発で想定される最大の地震の揺れ(基準地震動)が、福島第1原発事故前と変わらない値となっていることも共通しています。新基準は、敷地の地下構造を詳細に把握し「より精密な『基準地震動』の策定」を求めていますが、詳細な把握がされていない原発があります。
大飯原発では、新基準施行前に行われた現状評価で規制委の求めに応じて、敷地外の三つの断層が連動した場合(3連動)の揺れを評価し、759ガル(ガルは、揺れの強さを表す加速度の単位)との結果を示しました。
ところが、申請書の基準地震動は従来の700ガルのまま。規制委の会合で、関電は「連動を考慮する必要はない」との主張を繰り返しましたが、再稼働でもそれを押し通そうとしています。
また、川内原発に近い断層について、国の地震調査研究推進本部の委員会が2月にまとめた評価では、その長さを九電の評価より約2倍に伸ばすなど大幅に修正。しかし九電は、同本部などの「最新の知見を踏まえて検討した結果」としながら、同社が示した断層分布図は旧来とほぼ変わりません。
新基準が問題
北電は、泊原発で想定される最も影響を及ぼす津波(基準津波)の高さは詳しい計測の結果、最大で海抜9・8メートルから同7・3メートルに下がりました。伊方原発は従来の海抜約3・5メートルから同約4・1メートルに、玄海原発は約2メートルから、3メートルに見直されています。他の原発は以前と同程度です。
大飯原発は、規制委の現状を評価する会合で、福井県の想定している若狭海丘列付近断層による津波の影響評価を求められました。関電が影響を評価した結果、当初の基準津波を上回りました。しかし、今回の申請で関電は、同断層による「影響確認を行う」としているだけで、基準津波は以前と同じ想定を提出しています。
新基準は、東京電力福島第1原発事故の検証も済んでいない中で作られ、格納容器損傷の検証にも踏み込まないなど多くの問題を含んでいます。
さらに申請書にみられるように、新基準も「値切る」各電力の姿勢は、先の大飯原発の現状評価において、基準を満たさなくても運転継続を認めた規制委の対応に一因があります。
(松沼環)
(「しんぶん赤旗」2013年7月15日より転載)