東日本大震災で三つの原子炉がメルトダウンした福島第1原発。廃炉作業が始まります。工程表によっても40年かかる作業完了までをNHKは記録するといいます。原発事故を歴史に刻む大切な仕事です。
知恵結集こそ
その第1回と2回。第1回は廃炉現場に密着しつつ、数十年にわたる廃炉の工程を俯瞰(ふかん)します。番組が強調するのはその時間の長さ。廃炉の根幹は、数万年にわたり放射線を出し続ける溶けた核燃料=デブリを取り出すこと。そのために、原子炉を突き破ったデブリであふれた格納容器を水で満たすことが不可欠です。この準備期間が10年。しかし、破損した格納容器を補修する必要があります。破損箇所はどこか、放射線を出し続ける中心部に人は近寄れません。すべては口ボットによる遠隔作業。デブリ取り出しに15年、核燃料処分と原子炉解体に15年が費やされます。
過酷事故の先例もみます。米スリーマイル原発は廃炉が完了。しかし使用済み燃料の最終保管場所は未定です。旧ソ運のチェルノブイリ原発では格納容器が破壊されたため、石棺で覆われ、まだ廃炉作業に取りかかれていません。
原発労働者の苦悩、故郷を追われた人びとの思いも伝えます。しかし、作業の中心は東電とゼネコン。廃炉は日本中の知恵を結集すべき事業であるはずです。今の体制での廃炉か、番組はその疑問に答えていません。
労働実態に光
第2回は原発労働の実態に光を当てた調査報道です。労働者は一定の放射線を浴びるともう現場には出られません。熟練労働者が次々と現場を離れ、労働者を確保できなくなる事態が迫っています。多重下請け構造に注目し、人手がないのに賃金が下がるという現象も告発。東電の労働者確保の見通しのでたらめさ。これで廃炉が可能なのかという疑問がわきます。
番組は、廃炉事業は国民すべてが関心を持って見つめるべきだと強調。今後、「はたして人類と原発は共存できるか」という根本問題に目を向けることを期待したい。(荻野谷正博 ライター)