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原発推進の前提全て間違い 子々孫々に負の遺産残すな・・ 「エネルギー基本計画」を叱る(安斎育郎氏)

立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長 安斎育郎さん

放射線防護学を専攻し、40年以上国の原子力政策を批判してきた安斎育郎立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長。安倍政権が原発恒久化を狙って11日に閣議決定した「エネルギー基本計画」をどう見るか、聞きました。

 ─「エネルギー基本計画」では、原子力を「重要なベースロード電源」としていますが。

原子力について、温暖化防止につながる「低炭素」だとか「安定供給性」「効率性」「低廉」(*金額が安いこと)などを理由に「重要なベースロード電源」と位置づけていますが、ここに書かれていることは全部ウソですね。

「低炭素」というのは原子力発電所から排出される二酸化炭素が、石炭とか石油とか天然ガスを燃やす火力発電と比べると少ないというだけです。発電時だけをみた非常に視野の狭い言い方です。ウランの濃縮過程とか、それを加工したり輸送したり、あるいは使用済みの核燃料を輸送したり処理したりするのに電気や化石燃料を使います。システム全体を見れば、低炭素だとはいえません。

「安定供給性」も、日本の現状を見れば全く異なります。火力発電所なら、どこかの発電所で不具合があったからといって、全国の発電所を止めなくてはいけない事態にはならない。原発は、国内の48基全てが止まっています。一つ問題が起きると国家全域の電力生産体制に影響を及ぼしうるというのが、原発の特徴です。

 ─なぜ安定ではないのですか。

14-04-26anzai 一つは、東京電力福島第1原発の事故が示しているように、原子力は放射能という巨大な危険性を内蔵し、その及ぼす影響が極めて重大だからです。さらに原子力では、重大な事故が起こると、審査で考えていなかったような原因が見つかったりするため、他の原子炉でも放置すると、同じ種類の重大な事態を引き起こしかねない。だからいったん全部の原発を止めて審査をやり直さなくてはいけなくなる。不確実な要素が非常に多い、原子力技術の未熟さがあります。

「効率性]という点でも、原子力は最新の火力発電などと比べ大変効率が悪い。タービンを回して発電する場合、水蒸気の温度が高ければ高いほど効率がいい。しかし、原発は核燃料に負荷がかかって漏れが生じる危険性があるので、水蒸気の温度をあまり高くできません。火力発電のほうが原子力発電よりずっと高温の水蒸気で発電している。原子力は、大体その3分の1ぐらいを電気に変え、後の3分の2は熱のまま海に捨てているのです。

「低廉」も真っ赤なウソです。安いというのは、国家が開発の費用だとか立地対策を受け持ち、これから先、数万年にわたる膨大な廃棄物の処理・処分の費用だとかを含めていないためです。

前提が正しくない以上、それを基本的な電源として、位置づけるのは間違っています。

40年以上、国の原発政策を批判されてきましたね

 ─規制基準を「世界最高水準」だとして、適合した原発の再稼働を表明しています。

40年以上原発政策を批判してきましたが、日本の原発政策には根本に構造的、社会的な問題があります。それを6項目の点検基準として指摘してきました。

一つはエネルギー開発の自主性の問題です。日本は、アメリカの戦後対日エネルギー戦略のもとに、アメリカ無しには日本の電力生産ができない、アメリカ依存型の体制に
なってしまっています。

二つ目は、経済開発優先か安全優先かという問題で、原発は、1基造ると5000億円動くという極めて、利権絡みの産業です。その結果として安全性をないがしろにして原発が進められてきました。

三つ目は内発的な地域開発に影響を与えるか。

四つ目は、軍事利用への歯止めがかけられているかどうか。

五つ目は、地域住民と労働者の安全性が実証的に確認されているか。

六つ目は、民主的な原子力行政が保証されているか?ですが、どれをとっても日本は落第です。

原発の問題は、構造的に考えないといけない。安全性の問題で新しい基準を使ったから大丈夫というのは、事態を矮小化する議論にほかなりません。

 ─核燃料サイクル政策の推進を掲げ、高速増殖炉「もんじゅ」には、放射性廃棄物の容積を減らすなどの国際的研究拠点という位置づけまで与えていますが。

高速増殖炉は世界中どこも計画を放棄し、日本だけが頑張ってきた形になっています。これまで意味のある電力生産をしてきていないのに1日に5900万円ぐらいずつ無駄遣いを重ねてきている。そんな技術的見通しも定かでないものに、たまったプルトニウムを消費するための施設としての期待をかけるのは、全く無責任だし、ありえないことです。

原発に頼って、いったん事故がおこれば100年単位で放射能と向き合う生活を強いられるのです。また、使用済み燃料のように数万年にわたって子々孫々に何のメリット
もないものを負の遺産として残すことになります。この国は地球上の位置からいっても、北欧などと比べはるかに豊かな自然エネルギー資源を持っています。日本が持っているそれなりの科学技術力を応用して、より安全な自然エネルギー開発に力点を早く移す方が、将来の子孫にとってどれほど素晴らしいことか。それをしないで原子力にしがみつくことは、禍根を残すとになります。
聞き手 松沼環
写真 林行博

子の被ばく低減へ現地でボランティア

14-04-26sokutei 安斎育郎氏は昨年(2013年)5月から毎月、子どもたちの被ぱくを低減するために、「福島プロジェクト」に取り組んでいます。放射線測定器開発者や地元のNPOスタッフらと協力し、福島市内などの保育園や小学校の周りの放射線量を調査し、線量マップを作成、被ばく低減策を提案するボランティア活動です。

23日には、市内にある保育園の周辺で園児の散歩コースだった河川敷や住宅街で空間線量率を測定しました。堤防の上にのぽると、道の両脇の土の色が真新しく、最近除染されたといいます。道の真ん中の線量は毎時0.1マイクロシーベルト台。一方、草の茂る川側の斜面に近づくと線量は上昇。河川敷におりると毎時1.5マイクロシーベルトを示しました。

同行した保育士は「事故前はほんとに庭のように、子どもたちを遊ばせていました」と河川敷を見つめます。安斎氏が「道の真ん中から、住宅側なら散歩できますよ。でも、子どもたちは行きたがるだろうけど、こっち側(川側)は高い」というと、保育士はうなずきました。

 あんざい・いくろう・・・1940年生まれ。東京大学工学部原子力工学科卒。立命館大学名誉教授。立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長。放射線防護学、工学博士。久保医療文化賞受賞、ベトナム政府より文化情報事業功労者記章受章、ノグリン平和賞(韓国)を受賞。安斎科学・平和事務所所長。『安斎育郎先生の原発・・放射能教室』(新日本出版社)、『「原発ゼロ」プログラムー技術の現状と私たちの挑戦』(共編著、かもがわ出版)ほか。

(しんぶん「赤旗」2014年4月26日より転載)

(*=山本雅彦)

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