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福島に生きる 豊かな漁場、魚を取りたい・・相馬市の漁師 安達利郎さん(62)

「再稼働にお金をかけるのなら汚染水対策や廃炉にかけるべきだ」。福島県相馬市で15歳のときから漁にでてきた漁師の安達利郎さん(62)は、300トン以上の汚染水が海に流れ出していた問題が新たに浮上した東京電力福島第1原発事故に怒り心頭です。

「つらい。取れるものが取れない。福島産の魚が採算ベースにのるまでは早くて5年。10年以上は掛かるだろう」と、暗たんとする思いです。安達さんにとってこの2年半は、収束の見通しもなく混迷する原発事故に翻弄(ほんろう)されてきた日々でした。

漁の再開を待つ安達夫妻
漁の再開を待つ安達夫妻

出荷ができない

自粛が続いていた福島県沖の漁業は、再開へ向けて試験操業開始を9月初旬に予定していました。その矢先に汚染水問題が起きたのです。相馬双葉、いわき市両漁協は、9月初めからの試験操業開始の延期を決定。今後は、9月下旬から底引き船、10月初旬から小型船によるシラス漁の試験操業を予定しています。

「刺し網でカレイをとってきた。『常盤もの』として高級品だった。150種類もの魚が捕れる漁場。原発事故をめぐって次々と明らかになる放射能汚染問題。福島産として出荷はできなくなった」と、嘆きます。

韓国政府は、福島など8県の水産物をすべて輸入禁止にすると発表しました。安達さんはいいます。「国はずるい。東電任せだ。国が責任をもって海外まで広がっている風評被害にたいして漁民とともに対策をとって解決にあたるべきだ」

安達さんは、2年半前の3月11日、早朝の漁を終えて自宅にいました。経験したことのない揺れ。揺れが収まるのを見て6・6トンの自前の船「神変丸」を係留させている松川浦漁港に走りました。

押し寄せる津波に対して45度の角度をとって沖合に。不気味な海鳴り。繰り返す余震。「大しけとも違うすごいうねり。日は落ち、灯台も港の灯も見えない真っ暗闇の海の上で一晩をすごした。携帯電話はつながらない。情報はラジオだけ。家族の安否が心配だった」

明日にでも漁に

相馬市の震災で亡くなった人は439人。「沖に出るのが遅れた船は津波にのまれた。一瞬の差だった」。3月12日、朝6時すぎ、松川浦漁港に隣接する相馬港に戻りました。

命拾いをした安達さんは「漁が再開できるときは必ず来る」と、漁具の手入れや点検は欠かさず行っています。「明日にでも漁をしたい」

命がけで船を守りました。1700万円かけてエンジンを入れ替えて再操業を待っています。しかし、船を失った人たちはこれから建造しなければなりません。フル装備をすると7000万~8000万円は必要。「底引き漁船を造ると2億円はかかる。消費税増税などとんでもない話だ」と訴えます。

「原発さえなければこんなに苦しむことはなかった。原発はゼロにすべきだ」

(菅野尚夫)

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