「積み上げてきたものを根こそぎひっくり返された。賠償は失ったものを根こそぎ取り戻す賠償でなければならない」。福島県相馬市で障害者の生活を支援する「ひまわりの家」を運営する村松恵美子さん(63)はそう考えています。
ストレスが増大
「ひまわりの家」には、浪江町など福島県の沿岸部で暮らしてきた精神障害者たちも通っています。大震災前まではそれぞれの自宅などで過ごすことができましたが、仮設住宅に避難することを余儀なくされた精神障害者たちは、それが困難になりました。
狭く、隣と隔てる壁が薄くプライバシーがない仮設住宅ではストレスが増大し、仮設住宅での暮らしは困難になったのです。
2年半前の大震災の際も、避難所では障害者は暮らせませんでした。「ひまわりの家」を頼って、たくさんの人が助けを求めてやってきました。
避難指示区域の病院はすべて閉まってしまいました。精神科医療がなかった相馬市に暮らす精神障害者の方々は、普段使っていた薬が確保できなくなったのです。
「薬が無くなれば不測の事態になる」と村松さんは市や県に必死で要請。その結果なんとか薬を手配することができました。
「原発事故が起きたときの社会的に弱い立場の人たちへのフォロー体制が全く整えられていませんでした。あたりまえに暮らしを続けることができなくなったのです」
東京電力福島第1原発事故でこれまで東電が支払った損害賠償金は、2兆7677億円。原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てた人は、約3万4千人。福島県民約205万人からするとほんのわずかでしかありません。
再稼働など論外
村松さんは、「県民すべてが被害者だ」と考えています。「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故原状回復請求訴訟は、そうした願いを反映した訴訟です。同訴訟の特徴は、東京電力とともに国にも賠償責任を求めていることと、原状回復を求めていることです。真っ先に原告に加わりました。
「2年6カ月たっても、暮らしがあったところに戻りたくとも戻れないでいます。放射能被害が根こそぎ回復されないと戻れない。ですから私が求める裁判はお金ではないのです」といいます。「県外に避難した人も、県内にとどまった人も等しく賠償を請求する。東電の被災者分断策にくみしないたたかいなのです」
原告数は9月10日の第2次提訴で約2000人にまで増えました。
「汚染水だけが問題になっていますが、水も、空気も、土も全部きれいに戻させる。原発の再稼働など論外です。人間の感情や命を全く無視しています」と安倍首相の最近の言動を批判する村松さん。
「今ここに暮らし、これからもここで暮らしていく子どもたち、これから生まれてくる子どもたち。そのすべての人のためにたたかいます」(つづく)