きょうの潮流

 東京電力・福島第1原発の敷地内には、タンクが1000基以上あります。前に構内を取材した際、高さ12メートルのタンクが林立する状況に驚きました▼タンクにたまっているのは汚染水(アルプス処理水)です。東電は、海洋放出の目的がタンクを減らし、廃炉のための施設を建設する用地を確保することだといってきました。放出を始めた2023年8月から、2年たちました▼タンク100基以上に相当する10万トンを放出しましたが、減少量は6万トンにとどまりました。このままのペースなら、タンクの水がなくなるまで単純計算で40年を超えます。用地を確保するため空になったタンクの解体計画は、来春まで12基だけ▼1~3号機の原子炉内には、事故で溶け落ちた核燃料デブリにかける冷却水が、高濃度の放射能汚染水となって原子炉建屋内にたまっています。減少分が放出分を下回るのは、建屋に地下水や雨水が流入し、汚染水が今も1日約70トン増えつづけ、処理した汚染水も増えるためです▼汚染水の発生を抑制しない限り、放出の終わりさえ見えないことを改めて知らされます。汚染水の発生源となるデブリの問題も、30年代初頭としていた大規模な取り出しの開始時期が37年度以降にずれ込むと発表されたのは先月です▼原発事故の収束、廃炉への道のりの困難さは計り知れません。なのに政府は原発回帰の政策を打ち出し、それに沿うように電力会社は原発新設に向けた調査方針まで表明しました。事故の教訓はどこへ行ったのか。

(「しんぶん赤旗」2025年8月30日より転載)