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政府対策に未検討の課題・・海岸地下では海水と交流 福島第1原発の地下水問題・・信州大学教授元日本地下水学会会長 藤縄克之さんに聞く

東京電力福島第1原子力発電所の事故現場における放射能汚染水問題について、元日本地下水学会会長の藤縄克之信州大学教授に意見を聞きました。                    (中祖寅一)

原発の山側で地下水をくみ上げて事故現場への地下水流入を食い止めるという政府の対策について、十分検討されていない問題があるように思います。

それは、福島原発事故現場が海岸部にあるということです。

海水が浸入する

海岸部では地下で、海水と真水が交流しています。そのような場所では、陸側で地下水を抜くと、必ず海水が入ってきます。

海岸近くでは、一般に真水の地下水が陸側から海側に向かって流れていますが、真水より密度が大きい海水が真水の地下水の下を海側から陸側にもぐりこんでいます。

もし、陸側で地下水をポンプアップすると、陸側の地下水の水圧が低下するので、海水がどんどん陸側に浸入してきます。

例えば、洗面器に水を張り、真ん中に仕切りを置き、端まで仕切りがいかない場合を考えてください。仕切りの片側の水位を下げようとして、片方だけストローで水を吸い上げたらどうなるか。遮水壁を回り込んで水が流れ込んできます。

海に接している地下水もこれと同じで、山側で地下水を吸い上げると必ず海水がしきりを回り込んで入ってくる。海の近くは、水のコントロールが非常に難しいのです。

一方、海側には先に遮水壁がつくられているといいますが、壁の根(基礎)が透水性の低い泥岩層まできちんと入っていない場合、その下を潜り込んで海水が浸入してきます。このように、発電所の海側に遮水壁をつくっただけでは、側面から回り込んで来る海水をブロックできませんし、場合によれば壁の下からも流入してきます。しかも、海にはほとんど無限の水の供給力があるのです。

このことが対策で十分考慮されているか疑問です。つまり、原子炉の囲い込みができていない限り、山側で真水をくみ上げても、結局地下水の水位は思ったほど下がらず、汚染水の抜本対策になりません。

このような海岸付近での真水地下水と塩水地下水の交流は半世紀以上前から研究されてきている現象で、大学では初歩の地下水学で勉強する内容です。原発事故対応では英知を結集すべきといわれておりますが、それは当然で、本当にそのような体制で臨むべきでしょう。

地盤と建屋構造

また、この問題は結局、海の近くに原発を造ることの難しさにたどり着きます。今回のような事故が起きれば、再び同じような問題が起きうるということです。そもそも地下水が流入する地盤と建屋の構造にも十分な検証が要求されます。

また、地下水流動の仕組みを把握することは基礎的な問題として非常に重要です。

地下水が関与する大きなプロジェクトでは、必ず予備調査をやります。予備調査では、地下水がどんなふうに流れ、流速がどのぐらいかを調べます。そのためには適切な場所に適切な本数の井戸を掘り、水位を測定する必要があります。

さらに福島の事故現場では放射性物質が問題となっていますので、水質成分調査、それから海水と真水の交流状況を把握するための塩分濃度調査が必要です。これは海岸の遮水壁の効果を調べることにもなります。そして、重要な点ですが、溶融燃料の固まり(デブリ)が周囲にどの程度影響しているかを知るために、地下水の温度を計測し、温度分布を把握すべきです。デブリの近くは温度が高くなるはずで、どの程度の影響があるか、あるいは冷却水で加熱された汚染水がどの程度広がっているかを知ることができます。

福島の事故現場では、海水と真水の交流など水の移動、放射性物質の移動、それから熱の移動、これらを三位一体で、そのすべてを調査し、さらに複雑に絡まりあう現象が予測できないと実効性のある対策をとることは困難でしょう。しかし、残念ながら、いま世界の水準はそこまでいっていません。学術的にはとても挑戦的なテーマですが、まだそこまで深く研究している科学者はおらず、おそらく学界で人材を集めてやっても、5年はかかるプロジェクトになるでしょう。

囲い込む課題は

汚染水の対策としては、結局、事故を起こした原子炉建屋を囲い込むしかないのですがそれをどのように実施するかです。

原子炉建屋の周囲1・4キロメートルを凍土壁で囲み遮水するという計画は、非常に不確実性が高いのではないかと思っています。そのうえ、仮にそれができたとして、どう維持していくか、ランニングコストにも大きな課題があるのではないかと思います。

凍土壁には海側からは平均18度の海水が迫り、山側から平均13~14度の真水が流れ込んでいます。しかも、雨水が完全に排除できなければ、地表からも熱が入り込みます。これらの自然現象が持ち込む熱を処理して凍結させること自体が大変なことだと思います。さらには、凍土壁のすぐ内側で発生する溶融燃料と使用済み燃料の崩壊熱の除去も計算しなければなりません。ある計算では今でも3・38メガワットの熱を発しています。

それらを除去してなおマイナス40度を保ち続けるのに、どのぐらいの電力が必要で、それをどこから調達するのか。どのぐらいの予算が何年くらい必要なのか。確実さが必要なときにふさわしい対策になっているのか国内も海外も注視しています。

東京電力福島第1原子力発電所=8月27日(本紙チャーター機から撮影)
東京電力福島第1原子力発電所=8月27日(本紙チャーター機から撮影)

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