きょうの潮流

 東京電力福島第1原発事故を起こし刑事責任を問われた裁判で、東電旧経営陣の2人の無罪が確定しました。最高裁が一、二審の無罪判決を支持し、検察官役の指定弁護士の上告を棄却していました。最高裁は2022年、事故をめぐる別の裁判でも国の責任を否定する判決を出しています。未曽有の事故に事業者も国も責任がない、と▼刑事裁判の争点は第1原発の敷地を超える津波が襲来するという予見可能性があったかどうか。最高裁は予見可能性を否定しました。しかし、裁判で明らかになった証言などが物語るのは安全意識の欠如であり、対策をしないまま事故に至ったことです▼東電は国の地震予測「長期評価」に基づいて試算し、最大15・7メートルの津波を想定。社内の担当グループから津波対策が進言され、09年に着工できるとする防潮壁の工程表も示されますが、被告は対策を先送りしました▼最高裁の判断に首をかしげざるを得ません。指定弁護士は「現在の原子力行政におもねった不当な判断」と批判します▼政府は原発回帰へ政策のかじを切りました。原発の「最大限活用」を掲げ、老朽原発をさらに酷使する運転期間の延長、新増設の推進です。東電も、新潟県にある柏崎刈羽原発の再稼働に前のめり。事故が収束していないことなど、まさにお構いなし▼原発への不安は根強く、最近の世論調査では、再び深刻な事故が起きる「可能性がある」と回答した人は8割以上にも。原発に依存しない社会こそ安心の最大の保証です。

(「しんぶん赤旗」2025年3月17日より転載)