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3.11から13年 東京電力福島第1原発は今… 収束道筋 いまだ見えず 約束ほご 進む海洋放出

炉心溶融を免れた5号機の原子炉直下のペデスタル内の様子。上から垂れ下がっているのは制御棒駆動機構の関連機器。1~3号機では、溶融した高温の核燃料が周辺の機器を溶かしながら、原子炉圧力容器の底を突き抜けて、ペデスタルの床面に落下しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京電力福島第1原発事故発生から13年―。増え続ける放射能汚染水の根本的な解決策がとられないなか、政府・東電は昨夏、国内外の反対や懸念の声を押し切って「アルプス処理水」を基準値未満に薄めて海に放出する計画を強行しました。一方、廃炉の“本丸”である核燃料デブリの取り出しに向けた作業は難航。汚染水漏れや作業員の被ばく事故が相次いでいます。いまだ収束の道筋もみえない事故現場の合同取材に参加しました。(中村秀生)

 太平洋に面した原発の海側エリア。5号機の前では、1年前には未完成だった海洋放出のための設備が構築されていました。

 高台から見ると、海抜2・5メートル地点に、青い色の太い配管が3本並んでいるのが目につきます。直径は約90センチメートル。5号機の取水路から3台のポンプでくみ上げた大量の海水をそれぞれ移送します。

 3本の配管は、その先にある「海水配管ヘッダ」と呼ばれる直径2・2メートル、長さ約7メートルの巨大な配管につながって合流しています。

 近づくと、海水配管ヘッダの“横腹”に細い配管が接続されているのが分かります。その直径は約10センチメートル。タンク群から処理水を移送してきた配管の末端部に当たります。

 処理水は、環境への放出基準の数倍~数十倍程度の高濃度のトリチウム(3重水素)で汚染されており、法令上そのまま放出することはできません。

 政府・東電は、放出基準をクリアするために、処理水と大量の海水を混ぜる希釈設備を設置。その“心臓部”が、海水配管ヘッダです。毎秒4トンの海水が流れている海水配管ヘッダに、毎秒5リットルの処理水が注入されます。

 ここで初めて基準値未満に薄められた処理水は、海水配管で巨大な水槽に送られ、海底トンネルを流れて沖合1キロメートル地点で海に放出されるしくみです。

 海側エリアから陸側へ数百メートル離れた海抜約30メートルの地点には、灰色の1000トン級タンクが並んでいました。海洋放出前に処理水を測定・確認するための「K4タンク群」です。

 K4タンク群から延びる配管は「アルプス処理水移送ポンプ建屋」につながり、建屋には放射性物質の濃度測定のための試料を採取する設備などがありました。そこから処理水は海水配管ヘッダに向けて移送されます。

 東電の担当者は、異常があれば緊急遮断弁が作動して海洋放出を停止するなど、設備の安全面を強調します。

 しかし事故の加害者である政府・東電は、処理水を「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」とした地元漁業者との約束をほごにして、一方的に海洋放出を強行。担当者は「少しずつ理解していただくことを継続していく」と話しましたが、その言葉がむなしく響きました。

処理水をを大量の海水と混ぜて希釈する「海水配管ヘッダ」の出口側の配管=2024年1月12日、福島第1原発

進まぬデブリ取り出し

 炉心溶融(メルトダウン)を起こした1~3号機。使用済み核燃料プールからの燃料取り出しが完了したのは3号機のみです。

 水素爆発でぐにゃりと折れ曲がった鉄骨がむき出しになった姿をさらす1号機原子炉建屋。がれきの下には使用済み核燃料があります。そのがれきを撤去するため、建屋を覆う大型カバー設置工事が進められていました。ただ建屋壁面の高い放射線量への対応のため作業は遅れ、当初は今月をめどとしていた設置完了時期が、2025年夏ごろに先送りされました。

 2号機では、24~26年度の取り出し開始をめざして準備作業が進んでいます。建屋近くには黄色いヘルメットをかぶった作業員が見えました。

 一方、炉心から溶け落ちた核燃料デブリの取り出しに向けた作業は、この1年間ほとんど進展していません。

アルプス処理水移送ポンプ建屋。処理水を測定するための設備や移送ポンプがあります。

 2号機では、数グラム程度のデブリを試験的に取り出す計画が進められてきましたが、ロボットアーム開発の遅れに加えて、現場状況の困難さも判明。取り出し開始時期は繰り返し延期され、現時点では当初予定(21年中)の3年遅れの「今年10月まで」としています。

 1号機では昨年、水中ロボットによる調査で、原子炉圧力容器を支えるコンクリート製の土台(ペデスタル)が鉄筋むき出しのボロボロの状態であることが判明しました。

 合同取材団は今回、炉心溶融に至らなかった5号機のペデスタル内に入りました。相撲の土俵ほどの広さのペデスタル内には、上方から制御棒駆動機構の関連機器が所せましと垂れ下がっています。その金属部品を間近に見て、これらを溶かしながら床面に大量のデブリを堆積させた炉心溶融事故の熱量のすさまじさ、1~3号機の原子炉直下の状況の深刻さを感じました。

海水放出の前に処理水を測定・確認するための「K4タンク群」

被ばく・漏出 トラブル続出

 昨年から今年にかけて原発構内ではトラブルが続出しています。

 昨年10月には、高濃度の放射能汚染水からセシウムやストロンチウムなどの放射性物質を放出基準未満まで低減する「多核種除去設備」(アルプス)の洗浄中に放射性廃液が飛散して作業員にかかる事故が発生。12月には、2号機で除染作業をしていた作業員の被ばく事故がありました。

 今年2月には、汚染水の浄化設備の配管の洗浄作業の際、閉めるべき弁が開いた状態だったため高濃度の汚染水が建屋外に漏れ出す事故が発生しました。

 続発するトラブルについて、原子力規制委員会の検討会でも、地元・福島県の大熊町商工会の蜂須賀禮子会長から「東電は、県民・町民に失望を与えたことを認識していただきたい。対策が甘い。覚悟も本気もみえない。海洋放出には世界各国から監視の目があるにもかかわらず、確認できることをしないでトラブルが起きたのは残念。東電が立ち会えばこういうことはなかったのではないか」といった厳しい声が出されました。

 東電に海洋放出を続ける資格があるのか、問われています。

(「しんぶん赤旗」2024年3月11日より転載)