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原発撤退 日本にも助言したい・・ドイツ政府に勧告した倫理委員会

地震国では危険性ずっと高い・・
 元倫理委員会委員 ベルリン自由大学教授ミランダ・シュラーズさんに聞く

ドイツは2011年の東京電力福島第1原発での事故後、22年までに原発から全面撤退することを決めました。この決定に大きな影響を与えたのが、政府の諮問機関「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」の勧告です。その委員を務めたベルリン自由大学教授のミランダ・シュラーズさんを研究室に訪ねました。(ベルリン=片岡正明 写真も=※準備中)

福島原発事故を前後して、ドイツ人の原発についての考え方は大きく変わりました。事故前までは、例えば与党のキリスト教民主同盟の考えですが、原発には確かにメルトダウン(炉心溶解)のリスク(危険性)がある。しかし、技術力の高いドイツや日本ではほとんど起こりえない、というものでした。

事故後はそういう議論はできなくなりました。日本のような技術の高いところで事故が起こってしまい、もう誰もドイツで事故が起こりえないとはいえなくなったのです。

議論を重ね

さまざまなリスクが倫理委員会の議論で取り上げられました。

ドイツの場合、地震や津波での事故は起きにくいかもしれませんが、洪水はあります。テロリストが飛行機で原発に突っ込む危険はありえます。

事故が起きてしまったら、どうなるでしょうか。ドイツには東京のような1000万人を超える大都会はありませんが、中規模の都会は全国にあります。だから、原発はどこにつくっても中規模の都会からそんなに離れていない。また、原発周辺の地域の田舎の住民はどうなるのか。原発のリスクがあるなら、その周辺の田舎に住んでいる人がリスクをかぶり、人間的価値がおとしめられているのではないか。

また将来の世代の負担リスクでは、高放射性廃棄物の処理問題があります。最終処理場はドイツでもどこに作るかまだ決まっていません。処理場では、放射能の種類によりますが、少なくとも数千年、長ければ10万年も放射能が安全基準になるまで待たなければならない。私たちには、放射能処理のノウハウ(専門的技術)はないのです。

委員会では、直ちに原発から撤退すべきだという議論と、段階的な撤退という主張がぶつかりました。

具体的には、▽原発を一度に全部停止すると、エネルギー供給安定のためのリスクが問題になる、病院で電力が不足すると人命問題にもなる▽地域別では、原発にかなり頼っている独南部の電力供給が不足する▽8基の古い原発は安全基準が低く事故のリスクが高いので直ちに稼働中止すべきだ▽残りの原発は、太陽光、風力などの再生可能エネルギーの生産と送電施設ができるまでは使用を認める▽10年以内には再生可能エネルギーでの代替が達成可能で、最後の原発もそれまでに稼働停止すべきだ-などの意見が出ました。

そういう議論をして、私たち倫理委員会は政府に22年までの原発撤退を勧告しました。

足りた電力

日本ではたくさんの地震があり、数年おきには大きな地震があります。こういう国で、事故の危険を伴う原発をなぜつくったのかが、まず疑問です。

地震国の日本はドイツよりもずっと原発のリスクは高い。活断層の近くにある原発は直ちに稼働停止し、廃炉作業に入るベきです。残りの原発もできるだけ早く完全に稼働停止し、廃炉に向かうべきだと思います。

数年前まで、日本の企業は原発がなくなると、電力が不足して大変なことになるといっていました。ところが、日本は2年間、ほぼ原発からの電気供給なしにやってきています。節電などで電気不足にならないことが、わかってきました。

もちろん、原発を直ちに全部止めればその経済的な影響も大きいでしょう。銀行の負担や失業者が出ることなども考えなければならない点です。

しかし、何よりも大事なのは、原発からの撤退を基本にすると決めることです。最初から完全に原発を停止するか、段階的にやるのかは、日本がどれだけのリスクを持っているのかという議論とかかわってきます。

電力を原発以外の他の発電からどう賄うのかも問題でしょう。石炭火力発電では地球温暖化や大気汚染にも悪い影響を与えます。再生可能エネルギー発電が望ましいですが、十分になるには少し時間がかかります。

私が、もし、日本の政治家に助言できるとすれば、さまざまなリスクを考えて、原発はなるべく早く停止という決断をするように言うでしょう。日本の原発のリスクはドイツより大きいのですから。

ドイツの倫理委員会 ある問題について、純粋に技術的な問題だけでなく、より道徳的・倫理的問題を検討し答申する政府の諮問委員会。遺伝子組み換え、バイオ医寮、医薬品などの分野で審議を行っています。「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」には、地球科学者、金属工学者、大手化学メーカーの代表、環境学者、社会学者、宗教者、哲学者など多様な経歴を持つ17人が参加。2011年4月4日から5月28日まで論議を尽くし、答申をまとめて任務を終えました。

ミランダ・シュラーズ・・ 1963年、米国生まれ。米独日の環境・エネルギー問題を研究。07年からベルリン自由大学教授で、現在、政治・社会学科の環境政策研究センター所長。2011年に独政府の諮問機関、「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」委員を務めました。

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