東京電力福島第1原発では、炉心溶融事故を起こした1~3号機の原子炉建屋に地下水や雨水が流入し、放射能汚染水が1日90トン(昨年度)のペースで増え続けています。これを多核種除去設備(アルプス)で処理した汚染水(アルプス処理水)が、タンクにためられています。
アルプスは、セシウムやストロンチウムなど62種類の放射性物質を国の放出基準(告示濃度限度)未満に低減できるとされますが、トリチウム(3重水素=半減期12・3年)は除去できません。
処理後の水には、トリチウムが1リットル当たり数十万~数百万ベクレル程度(2021年4月時点の平均濃度は同62万ベクレル)含まれています。告示濃度限度(同6万ベクレル)を超えて汚染されているため、そのまま環境に放出することはできません。
計画では、処理水は測定・確認用タンク(約1万トン×3群)に送られ、第三者分析にかけられます。トリチウム以外の代表的な放射性物質が放出基準を満たしていれば、港湾外から取水した海水をポンプ(1日17万トン×3台)でくみ上げて混合し、トリチウム濃度を1リットル当たり1500ベクレル未満まで希釈します。海水で希釈された水は、まず上流水槽に送られます。これを下流水槽に流すと、海面との水頭差によって海底トンネルの先の放水口から放出されるしくみです。当面は、上流水槽で混合・希釈の状況を直接確認するとしています。
海水くみ上げポンプが停止した場合は緊急遮断弁を閉じて放出を停止。海域モニタリングで異常値が確認された場合もいったん放出を停止します。
敷地内の約1000基のタンクにアルプスで処理した約134万トンの水がためられていますが、そのうち「処理水」は約3分の1。残りの3分の2は、アルプスが本来の性能を出せずにトリチウム以外の放射性物質が放出基準を超えて残存した「処理途上水」で、これは再処理する必要があります。
タンク内のトリチウムの総量は約780兆ベクレル(21年4月時点)です。政府と東京電力は、年間のトリチウム放出量を、事故前の同原発からの放出管理目標値(22兆ベクレル)の範囲内と説明。今後も増える処理水を含めて、2051年の「廃炉」完了までに放出するとしています。
(「しんぶん赤旗」2023年8月23日より転載)