東京電力福島第1原発事故で出た汚染水(アルプス処理水)の海洋放出に対して国内外から反対や心配の声があがるなか、岸田文雄政権は22日、早ければ24日から放出を実施すると一方的に宣言しました。事故発生以来12年間、加害者である政府と東電は、汚染水対策で無責任・不誠実な対応を繰り返してきました。社会的合意を置き去りにして放出を強行すれば、新たな不信が長期間広がり、復興に悪影響をもたらしかねません。(「原発」取材班)
2011年3月の事故当初から、放射性物質による海洋汚染の問題は深刻でした。
1年強にわたって漁の全面自粛を強いられた福島県の漁業者。地道な努力を積み重ね、12年から試験操業、21年から本格操業への移行期間として水揚げ量の増加をめざしています。ただ、水揚げ量は事故前の21・6%(22年)にとどまり、いまも復興の途上です。
一方、政府と東電は汚染水問題で、漁業者をはじめとする地元や近隣県の復興に冷や水を浴びせる対応を繰り返しました。(年表)
事故発生の翌月には東電が、汚染水の移送先を確保するとして、事前の相談もなく放射性廃液を意図的に海に放出。漁業者は「暴挙」と抗議しました。
地下貯水槽や移送設備、タンクからの汚染水漏えい事故が多発しても、東電は後手後手の対応に終始。早くから疑われていた汚染地下水の海への流出を認めるのも遅れました。降雨時などに汚染水が排水路を通じて外洋に流れ出ていることを早くに把握しながらデータを公表せず対策もとってきませんでした。
汚染地下水の海洋流出を防ぐための「海側遮水壁」の完成直前になって、遮水壁を閉合するには、汚染地下水をくみ上げて浄化処理して海に放出する運用(サブドレン計画)が必要だと唐突に発表。東電自身も「後出しジャンケン」と認めた不誠実な態度は、漁業者の反発を招き、計画はストップしました。
その1年後、漁業者がサブドレン計画を「苦渋の決断」で受け入れたときに、政府と東電が約束したのが、アルプス処理水については「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」ということでした。この重い約束を反故(ほご)にすることは許されません。
その後も、処理水としてタンクにためた水の8割に、トリチウム以外の放射性物質が基準を超えて残存していることが発覚。このことを報道で明るみに出るまで説明してこなかったことも多くの人の怒りを呼びました。
処理水の処分方法について、政府と東電が「海洋放出ありき」の姿勢で、モルタル固化や大型タンクによる長期保管などの代替案に真剣に向き合ってこなかったことも、不信感につながっています。
(「しんぶん赤旗」2023年8月23日より転載)