岸田文雄首相が、東京電力福島第1原発の汚染水(ALPS〈アルプス〉処理水)の海洋放出を24日にも開始すると表明しました。海洋放出については、共同通信の世論調査で9割近い人が「風評被害が起きる」と回答しています(「東京」21日付)。放出を強行すれば、漁業だけでなく農業や観光業にも影響し、福島の復興に重大な障害となります。海洋放出は許されません。
「関係者の理解」はない
全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長は、21日の首相との面会で、「放出反対であるということはいささかも変わりない」と明言しました。海洋放出は、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」とした漁業者との8年前の約束をほごにするものです。
政府が海洋放出の目安とした今夏を前に、各方面から反対の声が出されてきました。全漁連は6月の総会で「海洋放出には反対」との特別決議をあげ、福島県漁連は、7月の西村康稔経済産業相との面会で、重ねて反対を表明しました。福島県いわき市議会は漁業者との約束を履行するよう求める意見書・決議を、宮城県議会は海洋放出以外の処分方法の検討を求める意見書をそれぞれ可決しています。「関係者の理解」が得られていないことは明らかです。
風評被害が避けがたいことは政府自身が認めています。首相は20日に福島第1原発を視察した際、東電の小早川智明社長に、風評被害に適切に賠償するよう求めました。21日には全漁連会長らに、風評被害対策300億円、漁業継続支援500億円などの基金を設けたと説明しました。放出は30年以上続くとされます。風評被害が長期にわたれば、漁業の継続そのものが危うくなります。原発事故の被害者にさらなる被害を押し付けることは許されません。
12年前の東日本大震災で福島第1原発は、核燃料が溶け落ち、建屋が爆発するという深刻な事故を起こしました。溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすため原子炉に水を流し込んでいますが、デブリから溶け出した大量の放射性物質を含む高濃度の放射能汚染水となっています。多核種除去設備(ALPS)で放射性物質はほとんど除去されていますが、トリチウム(放射性水素)は高濃度のまま残ります。ALPS処理後の汚染水は、原発敷地内のタンクに保管しており、すでに130万トンを超え、日々90トンほど増えています。
政府は、汚染水のタンク保管は限界だとして、海洋放出を決定しました。しかし、汚染水が増え続けるのは、建屋地下に流入する地下水を止められていないからです。地下水流入を止める「切り札」として国費で導入された凍土壁は、期待されたほどの効果はなく、汚染水の増加をゼロにする見通しは示されていません。
増加を止める抜本対策を
汚染水の発生を止める対策に真剣に取り組むことが不可欠です。福島大学元学長らの呼びかけで7月に発足した「福島円卓会議」は「汚染水発生を抜本的に減らす対策を検討すべきだ」と指摘しています。市民団体や専門家からは広域遮水壁などの提案も出されています。
岸田首相は、福島の復興の障害となる海洋放出を中止し、汚染水の増加を止めることをはじめ事故収束に力を尽くすべきです。
(「しんぶん赤旗」2023年8月23日より転載)