岸田文雄政権が、過酷な事故を起こした東京電力福島第1原発でタンクに保管している「ALPS(多核種除去設備)処理水」の海洋放出を今夏にも強行しようとしています。11日には西村康稔経済産業相が漁業者に説明するため福島県に出向きました。漁業者は、海洋放出が水産業に大きな打撃を与えるとして、一貫して反対しています。政府は、「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束を守るべきです。
漁業者との約束を守れ
8年前、汚染水の発生量を減らすために原子炉建屋周辺の井戸からくみ上げた地下水を浄化処理後に海に流すことについて、福島県漁業協同組合連合会は「苦渋の選択」として受け入れました。先の約束はその際、政府と東京電力が文書に明記したものです。これをほごにすることは許されません。
全国漁業協同組合連合会は6月22日の総会で「海洋放出には反対であることはいささかも変わるものではない」との特別決議を上げました。福島県いわき市議会は、漁業者との約束を履行するよう政府と東電に求める意見書・決議を同月15日に、宮城県議会も「風評被害等の拡大を招く事態は断じて容認できない」として、海洋放出以外の処分方法の検討を求める意見書を7月4日に、それぞれ全会一致で採択しました。
岸田首相は、これらの声に真摯(しんし)に向き合い、漁業者に対する約束を守らなければなりません。
原発事故は、地域社会に深刻な被害を及ぼしました。農林水産業をはじめ地元の業者、住民は土地、水、生産物の汚染状況を調べながら、事業の再建、復興のための努力を一歩一歩重ねてきました。諸外国による輸入規制も緩和されてきました。しかし、事故前には全国平均並みだった福島産米の価格はいまも9割台で、福島の沿岸漁業は、一昨年から本格操業に移行したとはいえ、漁獲量は事故前の6分の1にとどまっています。
福島原発では、溶融燃料(デブリ)から溶出したさまざまな放射性物質を含む高濃度の放射能汚染水が今も増え続け、ALPSで処理したうえでタンク保管されています。ほとんどの放射性物質は除去されますが、トリチウム(放射性水素)は高濃度のまま残ります。海洋放出の際には排出基準以下になるよう薄めるとしています。
放出ありきのやり方そのものが不信を高めています。水産業にとどまらず、農業や観光業への影響も懸念されます。海洋放出を強行すれば、原発事故からの復興に努力してきた福島の努力を台無しにしかねません。
被災地の復興に責任持て
汚染水が増え続けるのは、政府が地下水流入を防ぐために建設した凍土壁が効果をあげていないからです。市民団体や専門家は、広域遮水壁などを提案しましたが、政府は汚染水の発生を抑えるための真剣な対応をしていません。福島大学元学長らが呼びかけて11日に開かれた「福島円卓会議」でも、汚染水抑制の抜本的な対策の必要性が指摘されています。
岸田首相は、被災地復興への責任を自覚し、復興の妨害となる海洋放出方針を撤回すべきです。
真剣に英知を結集して、汚染水の増加を止めることをはじめ、事故収束に全力をあげなければなりません。
(「しんぶん赤旗」2023年7月16日より転載)