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福島第1原発1号機/原子炉の土台ボロボロ

水中ロボットがペデスタル内を映像を合成したパノラマ画像。むき出しの鉄筋や、棚状堆積物、底部には堆積物や落下した構造物が見えています(国際廃炉研究開発機構〔IRID〕提供/画像処理=東京電力HD)
【参考写真】炉心溶融を起こさなかった5号機のペデスタル内の様子。中心部に柱のような構造物が見えますが、1号機ではなくなっています(東京電力HD提供)

 原子炉3基が炉心溶融(メルトダウン)を起こした東京電力福島第1原発。今年3月、1号機内の水中ロボット調査で、原子炉直下の深刻な状況が見えてきました。原子炉を支えるコンクリート製の土台は鉄筋むき出しのボロボロの状態。鉄筋の上部には棚状の堆積物が形成され、床にあった構造物が跡形もなく消えていました。いったい何が起こったのか―。(「原発」取材班)

鉄筋むき出し 棚状堆積物…

 1号機の原子炉(圧力容器)は、直径約5メートル、高さ約20メートル。厚さ16センチメートルの鋼鉄製で、重量は約440トン。これを下から支えるコンクリート製の土台は「ペデスタル」と呼ばれ、外径7・4メートル、内径5メートルの円筒形です。

ペデスタル開口部付近の様子。かたまり状の堆積物(右下)、がれき状の堆積物(中央)が見ます(国際廃炉研究開発機構〔IRID〕提供)

 事故後の解析では、圧力容器内の核燃料や制御棒などの構造物が溶けて混ざり、底を突き抜けて原子炉格納容器の底部に落ちたと推測されてきました。ただ、原子炉直下の状況は、事故発生から12年もの間、直接確認できていませんでした。

 格納容器内で水中ロボ調査を開始した昨年には、ペデスタル外壁が損傷している様子やペデスタル内部から開口部を通じて流れ出たらしい大量の堆積物がペデスタルの外側にもたまっていることが明らかになりました。

 今年3月、水中ロボは、初めてペデスタルの内側まで入って内部を撮影。内壁や落下した機器の残がい、堆積物を映し出しました。

 その画像を合成してつくられたパノラマ画像は、相撲の土俵(直径4・55メートル)より少し広いペデスタル内部を、開口部からぐるりと見渡した様子を示しています。

水中ロボがペデスタル内から上方を撮影した画像。制御棒駆動機構やその関連機器と推定されるものが、本来の位置からずれ下がっていることが確認されました(国際廃炉研究開発機構〔IRID〕提供)

 本来なら見えるはずのコンクリートの内壁が、ほぼ全周にわたって消失し、鉄筋がむき出しになっています。コンクリート壁は厚さ1・2メートル。その真ん中に円周方向に設置された部材「インナースカート」が見えている所では、表面から半分以上の深さまでコンクリートが失われていることが分かります。

 ペデスタル内の全域が床から高さ数十センチメートルまで、かたまり状、がれき状などの堆積物で覆われていました。床に設置された構造物はなくなっていました。

 露出した鉄筋の上部には棚状の堆積物が突き出すように存在し、それより高い位置のコンクリートは残存していました。

 上方に整然と並んでいた制御棒駆動機構の関連機器の一部が、元の位置からずれ下がったり、底に落ちたりしたものもありました。

なぜ? メカニズムは未解明

【参考写真】炉心溶融を起こさなかった5号機では、ペデスタル内の上方に制御棒駆動機構の関連機器が整然と並んでいます(東京電力HD提供)

 ペデスタルの損傷が2、3号機より深刻なことから、1号機の事故の進展のすさまじさがうかがわれました。

 この調査結果は、原子力規制委員会の複数の会合で報告されました。「なぜコンクリートだけが損傷して鉄筋は残ったのか」「棚状堆積物はどのようにできたのか」といった不可解な現象への疑問が噴出しましたが、メカニズムは未解明です。

 原子力規制庁は、熱で溶融した炉心構造物が格納容器床面のコンクリートに接触して起こる現象「溶融炉心―コンクリート相互作用」(MCCI)について「1号機の様子は、従来安全評価のために考えられてきたMCCIとは異なっている」との見解を示しました。

 「映像を見たところペデスタルのコンクリート消失はコンクリートの爆裂から始まっ

事故発生から12年たっても爆発の跡が生々しい1号機原子炉建屋=今年1月、福島第1原発(代表撮影)

たと推測できる」と話すのは、耐火煉瓦(れんが)会社で長年、燃焼炉設計に従事してきた中西正之さんです。

 鉄筋コンクリート構造物が高温環境におかれた際に、内部の水蒸気が移動できずに表層部が爆発的に剥離する「爆裂」現象が起きた可能性を指摘します。

 中西さんは、次のようなシナリオを推定しています。MCCIが発生し、溶融炉心と床のコンクリートが溶けて混ざる▽そのとき、酸化ウランや金属などの重い成分は沈み、非金属の軽い成分は浮き上がって表面に殻のような層(クラスト)をつくる▽クラストの厚い層がペデスタルのコンクリート壁に接触すると爆裂が発生し、鉄筋を残してコンクリートが消失する▽一定の高さまでクラスト層は上昇するが、その後クラスト層が下降したため、クラスト層の一部が棚状の堆積物として残った―。

 もし高温の溶融燃料や金属の層がペデスタルに触れたとすれば、コンクリートだけでなく鉄筋も溶かしてしまうのに対し、比較的低温のクラスト層であればコンクリートだけを消失させるのではないか、というのです。

 一方、格納容器の底部では、MCCIが進行したことで、溶融炉心の沈下が発生し、大きな空洞ができた可能性があります。格納容器底部の堆積物はペデスタルの外側より内側で低くなっており、その原因はこの沈下現象ではないかと中西さんは考えています。

 規制委の会合では、地震などで土台が崩壊する可能性や、それへの対処についても議論になりました。東電は、ペデスタルの耐震性の再評価や圧力容器が沈下した際の放射性物質の飛散などへの対応策の検討を始めています。規制庁を中心にコンクリートの加熱試験を進める計画も進んでいます。

 中西さんは、ペデスタルのうち床面の堆積物で隠されて見えていない部分は、溶融炉心に触れて溶けて溶岩のようにかたまっている可能性もあるといいます。「クラストが軽石のようなものなら削って取り出すのはそう難しくないが、溶融炉心が冷えてかたまった部分は硬い。廃炉をどのように進めるのか、冷静に見る必要がある」と話しています。

 原発の危険性に早くから警鐘を鳴らしてきた舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学)は「MCCIが予想より激しく進行している。このことは、再稼働のための審査をパスした原発でも、MCCIを真面目に評価する重要性を浮かび上がらせたのではないか。事故の後始末も終わらず、教訓も学び終えていないなかで、新しい原発を建てていいのか、再稼働を続けていいのか、ということが問われている」と話します。

(「しんぶん赤旗」2023年6月24日より転載)