仙台地裁 女川原発差し止め認めず/避難計画実効性 判断避ける
東北電力女川原子力発電所2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働をめぐり、過酷事故を想定した広域避難計画の実効性を争点に、東北電力を相手に石巻市の住民17人が再稼働の差し止めを求めた訴訟の判決が24日、仙台地方裁判所であり、斉藤克洋裁判長は、原告の請求を棄却しました。
斉藤裁判長は「原発の差し止め請求では、原告側が原発事故発生の具体的危険性を立証する責任を負う」として、女川原発の具体的な危険性を立証しておらず差し止めは認められない、と判断。避難計画の実効性には踏み込みませんでした。
判決後、原伸雄原告団長は、「福島原発事故の最大の教訓は『安全神話』に浸っていたことだが、この判決を見ると裁判所が『安全神話』に浸っていて、事故は起きないという前提の考えられない判決だ。福島の悲劇を繰り返さないよう司法がストップをかけることを期待したが残念だ」と怒りを込めて語りました。
判決後に原告弁護団は声明を発表。福島原発事故の反省を受けて原子力基本法が改正され、1層から5層までの5段階の深層防護の原則が定められ、事故が起こることを前提とした第5層の避難計画策定が義務付けされたと指摘。しかし、その実効性についての司法判断を放棄し、深層防護の原則を否定する判決に抗議し、速やかに控訴するとしています。
「矛盾」「意味不明」 原告、たたかいこれから/仙台地裁 女川原発差し止め認めず
東北電力女川原発2号機の運転差し止めを住人17人が求めた訴訟(2021年5月提訴)。原告の訴えを棄却する仙台地裁の不当判決に対して、原告や支援者から怒りの声が相次ぎました。
原発問題住民運動宮城県連絡センターの高野博代表世話人(元女川町議)は「住民の命と健康を守る判決を期待したが、東北電力の主張通りの判決で怒りを感じる。いずれにせよたたかいはこれからです」と語りました。
判決後の報告集会には、会場を埋め尽くし通路いっぱいに椅子が追加されてもまだ足りないほど支援者が駆け付けました。
小野寺信一弁護団長が、避難計画の実効性を争点にしたにもかかわらず、判決は事故発生の危険性の立証を原告に求め、避難計画については判断を示さなかったと批判。「人間には必ず過誤があるという福島の事故の教訓が前提にあるからこその避難計画です。その前提を立証してからでないと避難計画の評価に入らないというのは、自己矛盾した判決だ」と訴えました。
会場の参加者からも「避難計画は必要だけど事故の可能性は考えないという意味不明な判決」「提訴の趣旨を理解してない」と次々に声が上がり、同時に「逆に避難計画に裏付けがないことが明らかになった」「原発ノーを突き付けよう」など控訴審に向けてたたかう決意が続きました。
事故は対策の前提/仙台地裁 女川原発差し止め認めず
原発の事故時に住民は安全に避難できるのか―。東北電力女川原発2号機の運転差し止めを求めた訴訟の最大の争点は、住民の避難計画の実効性の有無です。しかし、仙台地裁はこの争点について判断しませんでした。門前払いといえます。
原告側は、避難計画にもとづいて、被ばく状況を調べる検査所での交通渋滞、避難者の車中待機時間が考慮されていない問題、自家用車による避難が難しい住民らがバスで避難できないなど、計画の不備を具体的に挙げ、被ばくの危険性を指摘しました。
しかし、仙台地裁判決は、2号機の運転再開によって放射性物質が異常に放出される事故の発生の危険について、原告住民が「具体的な主張立証をしておらず」、そのため「事故発生の危険は抽象的なもの」と主張。避難計画に実効性を欠いていることをもって、ただちに差し止めを求めることはできないと結論づけています。具体的な危険の主張立証を行っていないから避難計画に関する原告らの指摘の当否を論ずるまでもないとした東北電力の主張通りです。
原発の避難計画をめぐっては、日本原子力発電東海第2原発についての2021年3月の水戸地裁判決は、避難計画がない自治体があることなどを挙げ、「避難計画及び、これを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠い状況にある」から「人格権侵害の具体的な危険がある」として運転の差し止めを命じました。
避難計画は事故が起きることを前提に策定されています。原子力規制委員会は、基準を満たしても絶対的な安全性を確保できるわけではないとしています。
今回の判決は、具体的な危険がなければ、避難計画の実効性を問う必要がないというものです。これは、原発の安全神話の復活ではないのでしょうか。
(「原発」取材班)
(「しんぶん赤旗」2023年5月25日より転載)