原子力市民委員会(座長・大島堅一龍谷大学教授)の連続オンライントークが2月14日に開かれました。「原発と再エネのコスト―国内外の議論の最前線―」と題して、東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授の明日香壽川(じゅせん)さんが報告しました。要旨を紹介します。(徳永慎二)
政府は以前、原発は「安い」と言っていましたが、今は「高くない」という言い方に変化しています。
再エネの新設発電コストは、原発の新設発電コストの数分の1というのが、いまや世界の常識です。原発と再エネの新設コストを比較したデータでは、米エネルギー情報局が2倍、ラザードという投資銀行で3~8倍、経済、金融など米大手情報サービス社ブルームバーグは5~13倍(表)です。
ラザードが2021年に出した発電エネルギー技術の新設コスト比較では、13年ごろから原発が再エネを上回っていたことがわかります。
米エネルギー情報局は毎年、発電エネルギー技術のコスト比較データを公表しています。22年では、原発が1メガワットhで88・24ドル、再エネ新設36・49ドルの2・4倍となっています。
■かなり高い
日本政府は20年のIEA(国際エネルギー機関)文献をもとに「原発新設は安くないが、原発の運転延長では安い」と言ってきました。ところが、ラザードの調査(21年)によると、建設費を含まない原発運転コスト(限界コスト)は、建設費用を含む再エネ新設と比べても、「同じか、高い」という結果です。
IEA文献とラザード調査との違いは、ラザードが欧米の建設費上昇を反映させているのにたいし、IEA文献はそうでないことが指摘されています。ラザードの方がより現実を反映しているといえます。
さらに、別の22年IEA文献では、原発新設は太陽光や風力による発電と比較してかなり高くなっています。各地域の発電コスト比較でも、どこでも原発新設はかなり高いという結果です。また、再エネ新設費用に蓄電池費用を加えても、原発の運転延長と競争できることがわかりました。
最近建設された、あるいは建設中の原発の建設コストと工期をみると、いずれも当初見積もりの2~3倍です。たとえば、フランスの原発の場合、コストは最終見積もりで当初の4倍。工期で3倍です。米国はそれぞれ約2倍です。
■最悪の選択
温室効果ガスの排出削減コストは、同じくIEA文献(22年)では、原発の運転延長の場合は、1トンあたり17ドル。これにたいし、太陽光発電では2・9ドルで6分の1。同じCO2量を削減するのに、原発運転延長は再エネ新設の6倍もの費用がかかる計算です。発電およびCO2削減のコストからみて再エネ優位は明らかです。そこでよく出されるのが、「再エネは天候に左右される変動電源なので、送配電網に接続した場合、システム全体のコスト(統合コスト)が高くなる」という議論です。
しかし、これも16年にIEAが、変動電源の割合が45%でも大きな追加費用は発生しない、と言っています。
原発は、コストや建設スピードで再エネに後れをとっており、原発への投資は結果的に温暖化対策を遅らせることになります。しかも、原発は事故や核拡散、攻撃対象となるなど固有のリスクがあります。その意味で原発は最悪の選択肢です。
しかし、日本ではまだまだこのことが理解されているとは言えません。広く知らせていく必要を感じています。
(「しんぶん赤旗」2023年3月17日より転載)