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いわき市民訴訟 原発事故 国の責任認めず・・控訴審で一転 仙台高裁

不当判決の垂れ幕を掲げる原告団の弁護士=10日、仙台高裁

 東京電力福島第1原発事故で、避難指示が出ていなかった福島県いわき市に居住していた住民1339人が東電と国に約13億6000万円の損害賠償と原状回復などを求めた「いわき市民訴訟」(伊東達也原告団長)の控訴審判決が10日、仙台高裁でありました。小林久起裁判長は、国の責任を認めず、東電だけに計3億2660万円の支払いを命じました。

 2年前の一審判決では国の責任を認めていました。同種の集団訴訟で国の責任を認めなかった昨年6月17日の最高裁判決後、初の高裁判決ですが、最高裁判決に従うものになりました。

 小林裁判長は、国の機関が地震予測「長期評価」(2002年7月)を公表した翌年の03年から事故の発生まで8年2カ月の間に、国が東電に規制権限を行使しなかったのは「違法な不作為」であり、「極めて重大な義務違反」と繰り返し述べました。さらに規制権限を行使していれば、防潮堤の設置や建屋の水密化で事故が避けられた可能性は「相当程度高いものだった」と認めました。

 その上で小林裁判長は、津波対策には「幅のある可能性があり、内容によっては、必ず重大事故を防げたはずだと断定できない」と判断。国の規制権限の不行使によって「違法に損害を加えたと評価できない」と、国の責任を否定しました。

 東電については、長期評価で重大事故を起こす危険が具体的に予見されながら、津波対策を先送りしたのは「原発の安全対策についての著しい責任感の欠如を示すもの」と指摘しました。

 他方、損害の因果関係が及ぶ期間の延長が一般のおとなや子ども・妊婦で認定され、賠償額が一審判決を上回りました。また、東電が対策をせずに「経営上の判断を優先させ」たことを、精神的苦痛の評価で考慮しました。

政府への忖度だ

原告ら「たたかい続ける」

 「いわき市民訴訟」の原告と弁護団は判決後、仙台市内で報告集会を開きました。オンライン参加を含め約300人が参加しました。

 原告団長の伊東達也さん(81)は「国に忖度(そんたく)した残念な結果だ」と語りました。国の責任を認めなかった昨年の最高裁判決に全国から怒りの声が多く寄せられたと述べ、「国民の声を聞かない今回の判決に、政府への忖度があったと思わざるをえない」と強調しました。

 弁護団の高橋力弁護士は、判決で事故の予見可能性や国の不作為などを認め、原告側の主張に沿うものであったのに「結論は国の責任を否定した昨年の最高裁判決に準じてしまった」とくやしさをにじませました。

 渡辺淑彦弁護士は、判決が東電の「悪質性」を認め、賠償額が増額になったことを「前進した」と評価しました。

 各地で原発避難者訴訟をたたかう原告たちも駆けつけ「絶対許されない判決だ」などと発言。昨年の最高裁判決をくつがえすために、たたかい続けるとの決意が語られました。

 原告団・弁護団は声明で、今回の判決について「国策に追随する硬直的な判断にほかならない」として、「福島原発事故に対する国の責任を明らかにする最高裁判決を勝ち取るために全力を尽くす決意」を表明しました。

(「しんぶん赤旗」2023年3月11日より転載)