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2023焦点・論点 岸田政権 原発回帰・・日本原子力発電元理事 北村俊郎さん

事故の教訓忘れたのか

 岸田文雄政権が原発の最大限活用を盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。この方針は、原則40年と定められた原発の運転期間を最大60年超に延長することや、次世代炉による原発の新増設を盛り込んでいます。新増設を「想定していない」としてきた東京電力福島第1原発事故後の方針を大きく転換しました。GX基本方針の問題点について、福島原発事故で福島県富岡町の自宅から避難を余儀なくされた日本原子力発電元理事で日本原子力産業協会元参事の北村俊郎さん(78)に聞きました。(三浦誠)

 ―岸田政権からは福島原発事故の反省がみえません。

 事故当時に住んでいたのは、福島第1原発から南に7キロの地点です。東日本大震災の翌日に防災無線で事故と避難指示を知り、隣の川内村に自家用車で避難しました。大渋滞で普段なら30分で着くのに5時間以上かかりました。

 自宅は今も帰還困難区域です。ようやく2024年から除染が始まり、25年に帰還困難区域が解除されるそうです。環境省から連絡があり、自宅を解体するかどうか聞かれました。絶対に帰ってやろうと思っていました。ただ急病になった場合、救急車で大きな病院まで1時間はかかるといいます。築22年になったこともあり、公費での解体を申請しました。

 岸田政権は福島原発事故後の方針を閣議決定のみで転換しました。事故の教訓を忘れているのではないか。事故が起きたらどうなるかのイマジネーション(想像)が足りません。

 閣議決定のみで変更したのは、「安保3文書」もそうです。敵基地攻撃能力は明らかに憲法違反です。日本海側には原発が並びます。戦争になれば標的になり得ます。原発は戦争を想定してつくられていないのです。

 国会中継をテレビで見ていると野党側がデータを示して問いかけているのに、岸田首相はまともに説明していません。議席が多数あるので押し切れるからでしょう。安保法制の時のような大きな反対デモが起きていないのが不思議です。

合理性ない次世代炉開発 経済的にも再エネに力を

 ―岸田政権は原発の活用が電気代高騰の対策になるとしています。

 原発にはコストの問題があります。経済産業省資源エネルギー庁の調査会でも、2030年の時点で原発のコストは1キロワット時あたり11円台後半で、太陽光発電の8円台前半~11円台後半より高くなるとされています。

 次世代炉の「革新型軽水炉」は30年代に運転開始予定です。このころにはコスト面で再生可能エネルギーにかなり差をつけられているでしょう。革新型軽水炉は1基1兆円近くかかるとされています。かつて軽水炉の建設費は1千億~2千億円でしたが、政府系金融機関から巨額の長期借り入れができましたし、有力金融機関が増資を引き受けてくれました。いま大手電力会社は赤字に転落したり、無配当になったりしています。革新型軽水炉のために1兆円もかけられる状況ではないのです。

 しかも原発というのは何基もつくってやっと建設コストが下がります。私が勤めていた日本原電は日本初の商業炉である東海発電所を導入しました。英国から輸入した黒鉛減速ガス冷却炉です。日本で唯一の型式となったため発電コストがものすごく高くなりました。東京電力は東海発電所の電気を時価の4~5倍の値段で購入していました。

 革新型軽水炉は同じことの繰り返しになります。最終的には消費者が負担します。これを強行するには国家予算による巨額の補助が必要になります。もはやビジネスではなく、革新型軽水炉をつくるメーカーのための公共事業のようなものです。

 ―岸田政権は電力不足や気候変動対策も理由にして原発推進を打ち出しています。

 電力量が足りないのではなく、時間帯や地域によって過不足があるのです。これを解決するには電力会社が融通しあう広域連携など調整にもっと力を入れるべきです。

 原発という発電設備を増やすことは解決にならず、かえって事態が悪化しかねません。原発は需要とは無関係に大出力で発電し続けるという特徴があります。これは扱いにくいのです。現在でも晴天の昼前後は送電系統への太陽光発電の接続を抑制していますが、大出力の原発を動かすと抑制が拡大されることになります。需要が多い時間帯に原発がトラブルで停止した場合に備えて、火力発電所を待機させる必要もあります。

 原発は発電時に排出する温室効果ガスは少ないのですが、これほどのコストがかかる発電所に気候変動対策を頼るのは非合理的です。次世代炉の開発に資金を使うなら再生可能エネルギーに投入した方がいい。

 再エネを大量に導入していくと、時間帯や気象条件によって過不足が生じますが、それは蓄電装置や送電網の拡充などで解決できます。海外では大型の蓄電施設のほかにEV(電気自動車)まで動員してビジネスを展開しています。

 今後は省エネ、省電力を大きなテーマとすべきです。全国で照明のLED化を進めるだけでも相当な省エネになります。家電の買い替えによる省エネ効果もあります。24時間365日稼働している冷蔵庫も、10年前に比べ現在は消費電力が大幅に減っています。

 経済的にみても原発を推進するのは非合理的な判断です。それなのに大手電力会社やメーカーが岸田政権に原発推進政策を求めるのは、自分たちの地位を守り、既得権益を失わないようにするためです。岸田首相にしても、原発を推進した方が自民党内では安泰になるからでしょう。

 きたむら・としろう 1944年生まれ。67年日本原子力発電入社。東海発電所、敦賀発電所などで勤務後、理事・社長室長に。2005年に退職し、12年まで日本原子力産業協会参事。

(「しんぶん赤旗」2023年2月17日より転載)