東京電力福島第1原発で放射能汚染水が貯蔵されたタンク群を囲むせきの水について、東電が定められた手順を守らず直接排水を繰り返していた問題で、原子力規制委員会の汚染水対策作業部会は10月24日、これまでの姿勢を転換し、東電の直接排水を条件付きで認めることを決めました。
これまでは大雨でせきの水があふれそうになった場合、水を一時貯蔵タンクに移して放射性物質濃度が均一になった状態で測定し、暫定排出基準値以下なら外部に出す手順でした。
作業部会は大雨で対応が間に合わない場合は、直近の測定値が2回連続で基準を下回ったせきの水について直接排水を認めました。測定方法もタンクに移すのではなく、せき内4カ所以上で採水して濃度分析する方法にしました。
今月20日の大雨では、水の濃度が基準値以下のせきは11カ所でした。台風27号の接近で大雨が降った場合、これらのせきにたまった水は濃度測定の結果次第で直接排水が可能になります。
新たな手順は年内だけの暫定的な運用とされており、東電はせきのかさ上げや水位計の設置を進めるといいます。
せきの水をめぐっては、東電の想定が甘く、タンクやポンプの準備不足であふれる事態が相次いでいました。
欠陥貯水槽へ移送
東京電力は10月24日、福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)のタンク群の周りの堰(せき)内にたまった放射能汚染水を地下貯水槽に移送し始めたと発表しました。地下貯水槽は相次いで汚染水漏れがあったため、東電は使わないとしていました。
今回、8カ所の堰にたまった水を4号貯水槽、7号貯水槽に移送。含まれるストロンチウム90の濃度は最高で1リットル当たり970ベクレルで、東電の暫定排出基準(同10ベクレル)の97倍です。
地下貯水槽は地面に穴を掘って3層の遮水シートで覆っただけの構造で、七つあります。4月に、高濃度汚染水を入れた四つの貯水槽のうち三つで漏えいが発生。東電は使用をやめることを決めていました。8月には、地下水位の上昇のため、浮力で浮き上がるトラブルも起きていました。
しかし今回、東電は、本来の移送先である仮設タンクの空き容量が少ないため、「現状をふまえると使わざるをえない」として、高濃度汚染水を入れたことがない三つを使うとしています。「一時的な使用」といいますが、いつまで使用するかは未定。原子力規制庁は「過去に漏えいがあった貯水槽を使わない」という条件で了解したと説明します。
この間、大雨で堰にたまった水が外にあふれたり、堰内の水を回収せずに直接排水するなど、決めていた手順も守れず、後手後手の対応が続いています。
濃度急上昇51万ベクレル 堰の水
東京電力は10月23日、福島第1原発で300トンの汚染水が漏れたタンクがある区画を囲む堰(せき)内で20日に採取した水からストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質(全ベータ)を1リットル当たり51万ベクレル検出したと発表しました。堰内の水では過去最高値です。
同区画(「H−4北」)では9月15日に採取した水から同17万ベクレルを検出していましたが、今月18日から測定したところ、それをはるかに上回る同36万~51万ベクレルを検出しました。
東電によると、同区画の北側に掘った井戸で今月17日に採取した地下水から同40万ベクレルを検出したため、堰内の水を測定し始めたといいます。
堰内の水で高濃度の放射性物質が検出されていることについて、東電は「漏れたタンクの底板の下に付着した放射性物質が雨で浮遊して広がったためではないか」と説明し、別のタンクからの漏えいではないとしています。
また東電は、漏えいタンク近くを通る排水溝(B−2地点)で23日に採取した水から、これまでの最高値の2・3倍を超える同14万ベクレルの全ベータを検出したと発表しました。