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福島原発事故の賠償基準「中間指針」 見直しへ大詰め・・訴訟によらず 十分な救済を

原発被害者訴訟原告団全国連絡会の院内集会で訴える原告ら=11月24日、参院議員会館

 東京電力福島第1原発事故の賠償基準の目安となる「中間指針」を策定する文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(会長・内田貴東京大学名誉教授)は、9年ぶりの「中間指針」見直しに向けて協議しています。内田会長は「方向性は見えた」と述べており、12月12日の審査会で中間指針第5次追補の素案を議論する予定です。検討状況を振り返りました。

 (「原発」取材班)

 審査会は4月、中間指針の水準を上回る損害賠償を認めた七つの集団訴訟の高裁判決が3月に確定したのを受けて対応を検討しました。集団訴訟の判決を分析・調査する専門委員を選び、11月に最終報告書を公表。指針の見直しの要否に当たり「新たに類型化された損害を取り込む努力・工夫が求められる」との見解を出しました。

五つの項目協議

 審査会はこれに基づいて、(1)過酷避難状況による精神的損害(2)故郷喪失・変容による精神的損害(3)相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害(4)要介護者など精神的損害の増額(5)子どもや妊婦以外の自主的避難の賠償期間―の五つの項目を協議してきました。

 審査会が新たに認める主な損害は別表の通りです。

 (1)の過酷避難状況の精神的損害については、「情報が不足する中で被ばくの不安と、今後の展開に関する見通しも示されない不安を抱きつつ」着の身着のままの過酷な状況の中での避難を強いられたことに伴う苦痛や過酷さとして、賠償すべき損害と認めました。

 (2)の故郷喪失・変容による精神的損害では、すでに支払われている帰還困難区域の住民については見直さず、新たに居住制限区域や避難指示解除準備区域の住民についても「生活基盤変容による精神的損害」として認めました。ここで「生活基盤」とは「人的関係や自然環境なども包摂する経済的・社会的・文化的・自然的環境全般」を意味し、各判決が認定した「故郷」と同義としました。賠償額は帰還困難区域より下回る額としました。

 (3)については、計画的避難区域(事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある区域)に滞在したことによる健康不安を基礎とする精神的損害を認めました。

 また、通常の避難者と比べて精神的苦痛が大きいとして、要介護状態や身体・精神の障害があることのほか、それらの介護を恒常的に行ったことや乳幼児の世話を恒常的に行ったことなどに対し、過酷避難状況による慰謝料とは別に増額する方向で一致しました。

 福島市やいわき市など「自主的避難等対象区域」の子どもや妊婦以外の住民への賠償対象期間については、これまでの「事故当初」から2011年12月末に拡大しました。

実態を直視して

 一方、七つの高裁判決のうち「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)の判決が認めた自主的避難等対象区域以外の住民の損害については、検討の対象にはなりませんでした。

 中間指針の見直しに当たって生業訴訟原告団・弁護団は声明を発表。自主的避難等対象区域の子ども・妊婦や自主的避難等対象区域以外について検討対象にしていない点を挙げて「被害実態を直視しないもの」と指摘。「確定した7高裁判決例による賠償水準を安易に切り下げたりせず、深刻な被害の実態に見合った、それにふさわしい賠償がなされなければならない」と強調しています。

 また、原発被害者訴訟原告団全国連絡会は先月、院内集会を開催。国会議員への要請の一つとして、見直しに際し「すべての原発事故被害者が訴訟によらずして被害の実態に見合った十分な救済が受けられる基準を設定するよう」求めています。

新たに賠償対象として認めた損害

▽過酷避難状況に伴う精神的損害

▽生活基盤変容による精神的損害の対象地域拡大

▽相当量の線量地域に一定期間滞在したことに伴う健康 不安を基礎とする精神的損害

▽要介護者や身体および精神障害者らの賠償増額

▽自主的避難等対象区域の子ども・妊婦以外の精神的損 害の期間拡大

(「しんぶん赤旗」2022年12月11日より転載)