岸田文雄政権が、原発依存に一気にかじを切ろうとしています。経済産業省の審議会は8日、原発の建て替えや運転期間延長などを進めることを盛り込んだ行動指針案を大筋了承しました。ロシアのウクライナ侵略に伴う化石燃料価格の高騰や電力需給ひっ迫など突発的な事態に乗じた重大な政策転換です。東京電力福島第1原発の甚大な事故への反省も教訓も投げ捨てた逆行に他なりません。しかも、国会での審議も行わず、民意にも問わないまま年内に最終決定することを企てています。あまりに乱暴なやり方です。強行は絶対に許されません。
危険無視の「安全神話」
行動指針案は、運転期間延長など既設原発の最大限活用を打ち出しました。現在の「原則40年・最大60年」という運転期間の規制は2011年3月の福島第1原発事故の後に設けられました。これを変更し、「安全対策」などで停止していた期間は運転期間から除外できるとします。これによって60年を超えた運転に道を開く狙いです。「一定期間後に制度を見直す」と明記し、運転期間上限を撤廃する意向も強くにじませています。
「3・11」後、「安全対策」工事に原発1基当たり平均2千億円を投じてきた電力会社は、早期再稼働と運転期間の延長を熱望しています。行動指針案は、再稼働への「総力の結集」も掲げました。
原発設計時の耐用年数は40年で、たとえ運転停止中であっても劣化します。東電柏崎刈羽原発7号機では停止期間中に冷却用の海水配管の腐食が進行し、直径約6センチの穴が開いていました。停止中のリスクを無視する仕組みは、新たな「安全神話」そのものです。
行動指針案は「次世代革新炉の開発・建設を進めていく」姿勢も鮮明にしました。まず廃止が決まった炉を対象に建て替えるとしています。「次世代革新炉」の建設は原発を事業として存続させたい原発業界の強い要求です。
岸田政権が昨年決定したエネルギー基本計画は「可能な限り原発依存度を低減する」と記述し、首相も今年前半まで新増設・建て替えは「想定していない」と明言していました。7月の参院選の自民党公約にも新増設・建て替えの言葉はありません。首相が原発建て替え方針などの検討を指示したのは、8月末の国のエネルギー政策を議論する官邸の会議です。
重大事故を起こせば国民の命を危険にさらし国土の破壊にもつながる原発をめぐる政策を、国政選挙での審判も経ずになし崩し的に転換することは、民主主義のあり方からしても大問題です。
首相の指示からわずか3カ月余りで、原発推進論者が圧倒的多数を占める審議会で議論して決める「結論ありき」のやり方も到底認められません。行動指針案は直ちに撤回すべきです。
原発ゼロの日本こそ
福島第1原発事故の被害はあまりに大きく、今も多くの人を苦しめています。原発依存の政策を続けることは、気候危機打開にとって急務となっている再生可能エネルギーの普及・拡大の大きな妨げにもなります。福島第1原発事故を経験した国民多数の願いである原発ゼロに踏み出す政治の実現こそが強く求められます。岸田政権の逆流を打ち破るために今こそ力を合わせましょう。
(「しんぶん赤旗」2022年12月11日より転載)