経済産業省は11月28日、岸田首相の原発推進方針を受けた今後の原子力政策の方向性をまとめた行動計画の原案を同省の審議会で示しました。次世代型原発の開発・建設の推進、「原則40年、最大60年」という原発の運転期間の現行ルールを変えて老朽原発を動かし続ける仕組みの整備などを盛り込んでいます。年内に決定しようとしています。(解説15面)
2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、政府は「可能な限り原発依存度を低減する」とうたい、新増設や建て替えは「想定していない」としていたのに、電力供給を口実に事故の教訓を忘れ、それらの判断を投げ捨てたもので、将来にわたり原発を使い続ける原発回帰方針です。
原発の運転期間は、事故後に改定された原子炉等規制法で運転開始から原則40年とされ、規制委が認可した場合、1回に限り最長でさらに20年延長できると定められています。
今回の原案では「原則40年、最大60年」とした上で、運転期間から新規制基準に基づく審査などによる停止期間を除くとしており、60年以上の運転が可能です。仮に審査で10年止まっていれば、その分を追加延長でき、最大70年運転できる仕組みです。経産省は来年の通常国会に関連法案の提出をねらっています。
次世代型原発の開発・建設では、まずは廃炉を決めた原発での建て替えをその対象にするとした上で、実現に向け政府支援や事業環境整備の検討・具体化を進めるとしています。このほか再稼働の加速への取り組みや、普通の原発でウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使う「プルサーマル」を推進する自治体への交付金を創設するとしています。
岸田首相は8月の政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、原発の新増設や既存原発の最大限活用などを「政治決断を必要とする項目」として表明していました。
15面解説 原発推進の行動計画原案
事故の反省を忘れて
経済産業省が、原発の新増設や運転延長などによって既設原発を最大限活用し原発を将来にわたって使い続ける計画の原案を、同省の審議会に提示しました。東京電力福島第1原発事故の反省を忘れたというほかありません。
原案では原発について、脱炭素社会をめざす「グリーントランスフォーメーション」の「けん引役」などと規定しています。しかし原発の新増設は地球温暖化対策に役立ちません。エジプトで開かれた国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で気候変動による損失と被害に特化した基金設立が決まりましたが、すでに各地で気候災害による甚大な被害が起きており、対策は待ったなしです。原発は計画から建設までの期間が長いのが特徴。経産省の作業部会では、最優先で取り組むとする次世代型原発の一つ「革新軽水炉」の初号機の運転を2030年代半ばとしています。再生可能エネルギーの大量普及こそ急ぐ必要があります。
また運転延長の問題でも老朽原発を酷使すれば、事故の危険性が高まります。政府は電力の安定供給などを延長の必要性として挙げますが、老朽原発は事故・トラブルが多くなり、電力の供給源としてはむしろ、より不安定になります。大規模電源である原発の不測の事態は電力不足を引き起こしかねません。
しかも老朽原発が何らかの原因で停止した場合の予備の電源として火力発電の維持が前提となるので、温暖化対策にも貢献しません。
政府が昨年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では「福島第1原発事故を経験したわが国としては、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」と明記していました。原発の新増設や運転延長は、その看板すら投げ出すものです。国民的な議論をせずに、原発推進・容認の委員がほとんどを占める審議会で議論を進めるやり方は「結論先にありき」です。原発新増設などを、世論を無視し、原発ゼロを願う国民に押しつけようとするのは許されません。(「原発」取材班)
■経産省の原発政策の方向性の原案
・次世代型原発は廃炉を決定した原発が対象
・運転期間は審査による停止期間を除外し60年超が可能
・プルサーマル推進の自治体向けの交付金創設
・「核のごみ」の最終処分に向けた文献調査実施地域拡大へ国主導の理解活動強化
・原発廃炉費用を電力会社が認可法人に拠出
(「しんぶん赤旗」2022年11月29日より転載)