委員「福島の教訓放棄」
岸田首相が原発の運転期間の延長について検討の加速を指示していた問題で経済産業省は8日、同省の審議会「原子力小委員会」で今後の延長のあり方について三つの案を提示しました。3案のうち2案は現行の「最長60年」を超えて運転ができます。委員からは「福島第1原発事故の教訓の放棄に他ならない」との批判の声も上がりました。
東京電力福島第1原発事故後に改定された原子炉等規制法(炉規法)では、原発の運転期間は運転開始から原則40年とされ、規制委が認可した場合、1回に限り最長でさらに20年の延長が認められます。
この日、経産省が示した案は(1)現行の炉規法にある上限規定を維持する(2)運転期
間の上限は設けない(3)一定期間の上限は設けつつ、事業者が予見しづらい要素による停止期間を含まない―の3案。(1)の現状維持以外の案はいずれも、経済界や電力会社が求めていたもので、60年以上の運転が可能になります。
(3)案は、新規制基準による審査をはじめ行政命令や原発の差し止め訴訟の仮処分命令などで停止した期間を運転期間に含めないとするものです。3案を示した上で経産省は「必要に応じて見直すこととすべきではないか」とも提案しました。
原子力小委員会での議論では、脱原発を掲げるNPO法人の松久保肇事務局長が、「原則40年、最長60年」のルールが「福島第1原発事故の教訓に基づいて、国会で与野党合意のもと導入された安全規制であることを再確認すべきだ」と指摘。「さらに延長することは事故の教訓の放棄に他ならない」「過酷事故の芽を残して育てるようなことをしてはならない」と批判しました。
運転期間をめぐっては岸田首相が8月、運転期間の延長などについて、年末に具体的な結論を出せるよう検討の加速を指示。これを受けて経産省は先月、法律の改定を含めた措置の必要性を表明しました。
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の村上千里理事は、政府が「可能な限り原発依存度を低減する」としてきた従来の方針を「短い期間で国会審議も国民的議論も行わずに大きく変更すること自体が問題ではないか」と述べ、「拙速な進め方は原子力行政への信頼を損なうことにつながるのではないか」と指摘しました。
一方、原発推進の委員からは、上限を設けない(2)案を支持する意見が多数ありました。
(「しんぶん赤旗」2022年11月9日より転載)