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2022とくほう・特報 原発60年超運転延長検討・・リスク増、不安定な供給源

再稼働した原発では日本で最も古い関西電力美浜原発3号機(右)福井県美浜町

寿命が近づけばトラブル増える

 原則40年、最長でも60年とされている原発の運転期間の延長について、経済産業省資源エネルギー庁の審議会で検討が進められています。運転期間の延長は原発の新増設などとともに岸田文雄首相が打ち出した原発推進政策の一つです。エネルギーの安定供給や気候変動対策を理由にした老朽原発の酷使は、危険で全く合理性もありません。(松沼環)

 経産省は今月、運転期間の延長に向けて法整備を検討する方針を明らかにしました。

 これに対し、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、原発の運転期間について「利用の在り方に関する政策判断」だとして「規制委が意見を述べる立場ではない」と、経産省の方針を容認し、原則40年とする原子炉等規制法の規定を削除する可能性にふれています。

 しかし、原発の運転期間の定めは、東京電力福島第1原発事故の教訓として定められたものです。第1原発1号機は、東北地方太平洋沖地震が発生した2011年3月に稼働から40年になる予定でしたが、同月12日に建屋が爆発。その後、2~4号機でも炉心溶融や建屋が爆発する事態となりました。

 原子炉等規制法は12年に改定されました。原発の運転期間を原則40年とし、規制委が認めた場合1回に限り最長20年の延長を認めるとされました。当時の民主党政権と自民・公明党が合意し、それまで定めのなかった原発の運転期間が導入されたのです。

 当時、野田佳彦首相は、「経年劣化等によりその安全上のリスクが増大することから」「リスクを低減するため」運転期間を制限したと答弁(12年5月)。40年としたのは、原発の設計上の評価が40年の使用を想定して行われていることが多いことなどを理由としました。運転期間の導入は、原発の安全にかかわる問題です。

「投資の回収 厳しくなる」

 原発の運転期間が導入されると、電力業界や財界は、その撤廃を繰り返し要求してきました。

 経団連は19年、原発の運転期間を最長60年より延ばすことや、審査などによる停止期間を運転期間に含めないよう求める提言を発表しています。

 電力各社でつくる電気事業連合会(電事連)は、原発を再稼働させるための投資の「回収見通しが厳しくなる」と、運転期間制度の見直しを要求していました。

 経産省も、今月の規制委の会合で、運転期間の制限が再稼働の妨げになるのは「よろしくない」と推進の立場を押し出しています。

 老朽化した原発の原子炉は、高エネルギーの中性子を浴び続けたことで粘り強さを失い、もろくなります。もろくなった原子炉に事故などにより緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動した場合、冷却水が一気に注水される衝撃で、原子炉がガラスのように割れる危険性が増大します。

 また、運転による放射線や温度、圧力変化で配管や機器は腐食や疲労が発生し、劣化します。04年に関西電力美浜原発3号機で、老朽化が原因でタービン建屋の配管が破断する事故が起き作業員5人が死亡、6人が重傷を負っています。

 運転していなくても、コンクリートやケーブルの被覆などの劣化が進みます。

 古い原発は設計の古さも問題です。規制委の田中俊一・元委員長は「40年前の設計は、やはり今これからつくろうとする基準から見ると、必ずしも十分でない」(12年9月)と発言しています。

評価の仕方も事業者まかせ

 現在の規制では、運転開始40年を前に、事業者が特別な点検を実施し、延長期間の耐震性などを評価。それを元に規制委が審査をしています。しかし、特別点検では実際には確認できない箇所もあります。

 原発の老朽化問題に詳しい井野博満・東京大学名誉教授(金属材料学)は、「原子力規制庁とのヒアリングなどで、規制庁は審査で元データを確認していないし、評価の仕方も事業者まかせということが分かりました。いいかげんな審査です。非常に危ういです」と指摘します。

 老朽原発を酷使すれば、事故の危険性が高まります。政府は電力の需給ひっ迫を運転延長の理由に挙げていますが、老朽原発は事故・トラブルも多くなり、電力の供給源としてはより不安定になります。

 老朽原発が何らかの原因で停止した場合のバックアップの電源として火力発電の維持が前提となるので、気候危機対策にも貢献しません。

再生可能エネ普及の妨げに

 米国では、米原子力規制委員会(NRC)が、多くの原発で60年運転を承認し、一部の原発の80年運転を承認していると経産省は資料を示しますが、実際の長期運転は最長でも50年超です。原発の老朽化対策にコストがかかる一方、メンテナンスや工事によって稼働率が低下するため、多くの老朽原発が、経営的な判断で停止・廃炉となっているのです。

 日本は地震などの危険性が高いため、よりリスクがあると考えられます。更田豊志・前規制委員長は「高経年化に関していうと、必ずしも海外の事例が直接参考になるわけではない。例えば、地震一つをとっても置かれている状況が全然違う」(22年8月)と発言しています。

 原発依存は、気候危機対策や電力の安定供給にとって急がれる再生可能エネルギーの大量普及の大きな妨げにしかなりません。

 元東芝の原子炉格納容器設計者、後藤政志さんは「規制委は原発の寿命40年と決めたのが科学でなく、政治的に決めたと言っています。しかし、設計する立場から言えば、何年持たすのか決めなければ、設計できません。原発は最初30年、それが40年寿命で設計されてきました。寿命はピタッと決められませんが、寿命が近づけば、機器のトラブルが増えリスクが増大していく、これは科学です。古い炉は設計思想も古く、よりリスクが高い。使い続けるべきではありません」と話しています。

(「しんぶん赤旗」2022年10月24日より転載)