岸田文雄首相は、電力・エネルギーの安定供給や脱炭素を理由に、原発の新増設など、原発推進方針を表明しています。しかし、原発技術は、重大事故はもとよりトラブルなど不安定な電源です。電力の約7割を原発にたよる原子力大国フランスは、この夏、過半数の原発が停止し、電力をドイツなど近隣諸国からの輸入でしのぎました。この冬の電力にも不安が残るとしています。(松沼環)
この夏、フランス電力会社(EDF)が国内に保有する原発56基のうち、32基が停止しました。原因は、検査・修理が長引いたことや想定外の配管の亀裂などです。さらに異常な熱波で出力を下げる原発もあり、フランス政府が市民に節電を呼びかける事態になりました。
EDFの発表やロイターの報道によれば、EDFは、メンテナンスに加え老朽化対策などの必要性から、原発の計画的な修理や検査を実施していましたが、新型コロナウイルス感染症などの影響で長引いています。
想定外の亀裂も
さらに昨年末、シボー原発1号機(加圧水型=PWR、150万キロワット級)の10年ごとの検査で、ステンレス製の1次系配管から想定外の亀裂(応力腐食割れ)が複数見つかりました。EDFは、この問題で計12基の原発を停止し、少なくとも計4基から応力腐食割れを発見しました。2025年までに全ての原発の検査を行うとしています。フランスの原発はPWRで、1次系のステンレス配管での応力腐食割れは想定外とされていたため、緊急の水平展開が必要になったものです。
日本でも20年8月に関西電力大飯原発3号機(PWR)で応力腐食割れがみつかっており、同年11月に関電の稼働原発がゼロとなっています。
一方、この夏の記録的な暑さと水不足が追い打ちをかけました。原子炉を冷却する水を引く河川の水温が上昇。温排水による野生生物への影響を防ぐため、一部の原発は出力を下げて運転しました。
EDFが07年に着工したフラマンビル3号機の工事の遅れも深刻です。163万キロワットと大型の同原発は、当初12年に稼働予定でしたが、工事のトラブルが続出し、稼働予定は早くて23年にずれ込んでいます。建設費も当初の33億ユーロ(約4700億円)から、120億ユーロ(約1兆7000億円)以上に膨れ上がっています。
このためEDFは、22年の原発の発電量を2800億~3000億キロワット時の下限近くと推定しています。これは21年の3607億キロワット時と比べても17~22%の減少です。
最大で15%削減
ロシアのウクライナ侵略のためヨーロッパの電力市場が高騰していますが、フランスは22年、通常輸出している電力の純輸入国になりました。
電力消費が増える冬に向かって、原発の再稼働を進めるとしていますが、フランスの送電事業者(RTE)の分析では、最悪の条件では、停電を回避するためリスクの高い時間帯の消費電力を最大で15%削減する必要があるとしています。
最悪のタイミングで起きたフランスの原発の事態は、原発の不安定さを露呈しています。
(「しんぶん赤旗」2022年10月10日より転載)