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2022焦点・論点 岸田首相の原発推進表明/原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)会長、城南信用金庫名誉顧問 吉原毅さん

よしわら・つよし 1955年生まれ。2010年城南信金理事長就任、15年に退任、相談役、顧問を経て20年から名誉顧問。17年、「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」を創設し、会長に就任

科学的な根拠がない「原発カルト」 再エネ100%こそ経済的で合理的

 原発の再稼働へのあらゆる対応や原発の新増設、原則40年の運転期間の延長の検討加速など、東京電力福島第1原発事故後でこれまでにない原発推進方針を先月表明した岸田文雄首相に批判が起きています。元首相の小泉純一郎、細川護煕両氏が顧問を務める原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)は声明を発表し、方針を撤回し再生可能エネルギー100%を目指すよう求めています。原自連会長の吉原毅・城南信用金庫名誉顧問に聞きました。(三木利博)

 ―岸田首相の表明を「火事場泥棒的な政策転換」と声明で批判しています。

 こういう政策が平気で出てくるというのは、その政治家に科学的知識が全く欠けていることの明らかな証拠です。原発は制御できないエネルギーであることは福島第1原発事故で実証されている。停電が起きただけで炉心溶融し水素爆発してしまう。停止してもずっと核燃料を冷やし続けないといけないことを国民みんなが理解しました。

 今、ウクライナのザポロジエ原発の電源が停止してしまう危険が高まっていることに世界中が大変なことだと見ています。原発は戦争の標的になり得る、それは地球全体の大変な被害になり得るということです。こういう高いリスクのある原発を動かすことはあり得ない話です。

 しかも岸田首相の話には、老朽化している原発であることを無視して法律を変えてまで運転延長することが含まれています。運転40年の延長が「例外的」とされたにもかかわらず、例外が例外を生んでいくということになります。老朽化した原発の原子炉が強い放射線にずっとさらされます。10年、20年と浴びるともろくボロボロになるのは機械金属の知識で当たり前の話。それを再稼働してしまうのは恐ろしいことです。

 それに第1原発の事故後、安全性を保つために相当な設備をさまざま追加しなければいけなくなりました。日本の原発は1基5000億円くらいで造られた安物原発。ヨーロッパでまともな原発を造れば1兆5000億円かかる、つまり3倍かかると言われています。安物原発はそれだけ危険性が高い。安物の欠陥原発で、しかも古くなった原発を再稼働するのは日本全体にとって大変なことです。

 どんな立場でも、自分たちや仲間、村、町、国家、世界中の人たちが日常生活を普通に送れて幸せに生きていくことは、いいことだと思いますよね。これはイデオロギーとかでなく、人間として普遍的な話です。原発事故はそういう平穏な社会を一瞬にして変えてしまう。このことが福島事故でわかった。にもかかわらずそのリスクが高いことをやろうとしていることが論理的におかしいし、科学的な根拠は全くない。これは狂想的な「原発カルト」というしかない。それでメッセージを発せざるを得ないとなったのです。

 ―岸田首相は、電力ひっ迫の克服などを原発推進の口実にしています。

 今年もいろいろな地域で再生可能エネルギーによる電気が余り、電力会社が出力抑制を求める例がありました。電気が足りないどころか捨てているようなものです。再エネを送電線へ優先接続させて出力抑制をやめればいい。東日本と西日本の間で周波数の異なる電気を融通する連系施設を増強するとか、融通ネットワークを充実させる方針をはっきりさせる必要があります。原発を造るよりはるかに安い。

 原発はバックエンドコスト(使用済み核燃料の処分など)に廃炉費用だけでなく、使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物(「核のごみ」)を何万年、何十万年と管理する特有のコストがあります。電力会社は無責任に後世に巨額のツケを押しつけてしまおうとしています。原発のコストが安いというのは大ウソです。

 ―政府は原発の新増設を次世代革新炉などと宣伝しています。

 まことしやかに「小型炉」ともいっていますが、これも安全であるという根拠はありません。製造コストも高くなるし、テロの危険も同じ。「核のごみ」も発生します。一カ所に集中立地すると想定されているので事故の危険性は何倍にもなります。ウランも必要だから海外依存に変わりなく、エネルギー自給とは程遠い。無駄な開発投資であり、即刻中止すべきです。

 ―原自連は政府に対し、「再エネ100%を目指すべきである」と提案しています。

 2050年までに世界全体を再エネ100%にすることが経済合理的に可能だという科学者によるコンセンサスが報告されています。なぜか。世界の常識として太陽光発電が一番安いからです。燃料費がゼロですから。

 たとえば農地で高さ3~4メートルに太陽光パネルを設置する営農型ソーラーシェアリングを広げれば、これまで電力会社に支払ってきた電気代で地域が潤い、農家の収入も増え、地域の活性化が進みます。大規模な一極集中型の原発は何かあればあっという間に広域が停電する。地域分散型の再生可能エネルギーにすれば、国全体として強靭(きょうじん)な体制ができます。

 一方で電力需要は10年前と比べ減っています。それだけ節電が進んでいる。節電・省エネの打つ手はまだまだいっぱいあります。日本の建物の断熱が進んでいないし、空調設備の置き方を変えるだけでも節電になることがわかっています。

 日本の政治のあり方を考えると、大局を見て科学的知識に基づき論理性をもって将来にとって正しい選択をしていこうという誠実な考え方をする人たちと、「今だけ、金だけ、自分だけ」という人たち、そういう対抗軸を考えるべきだと思います。

 今回、メッセージを発し、いろんな立場の人たちと連帯して原発問題、自分さえよければという考えに何としてでも対抗しなければいけないと思います。

(「しんぶん赤旗」2022年9月24日より転載)