今回の参院選で「原子力の最大限活用」を掲げた岸田自公政権。参院選挙後も、再稼働はじめ原発の復権を求める動きをいっそう強めており、「即時原発ゼロ」をめざすたたかいが、いよいよ重要になってきています。
岸田文雄首相は、7月27日に発足したグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で、「原発再稼働とその先の展開策など政治決断が求められる項目」の明示を次回会議までに求めました。これに先立つ14日には、この冬の電力需給ひっ迫の懸念を挙げて、「できる限り多くの原発、この冬でいえば最大9基の稼働」を進めるよう経済産業相に指示したと発言しています。
原子力規制委員会の審査で新規制基準に合格したとされる「設置変更許可」済みの原発は17基あります。その内10基が一度は再稼働しています。他の7基は、工事中などすぐには稼働できません。
各事業者の運転計画によれば、九州電力玄海3号機(佐賀県)が発電を始める1月中旬から、2月中旬までの1カ月程度の間、9基の原発が発電する予定になっています。(グラフ)
岸田首相の「最大9基の稼働」を進めるという発言は、この計画を追認し、原発依存を当然視したもの。そもそも原発は設備費が大きく燃料費が相対的に低いことから、事業者は既存原発をできるだけ運転したいというのが本音です。
しかし、いずれも西日本の原発で需給状況が特に厳しいとされる東電エリアには、直接影響しません。
西日本から東日本に送られる電力は周波数を変更する必要があることなどから、関東地方へ送電可能な電力量は限られています。6月下旬の関東地方の電力ひっ迫の際も西日本から限度いっぱい送電されていました。
「安全を確保」
岸田首相は言葉では安全を確保すると言います。しかし、潜在的なリスクの大きな原発は、事故に至らない場合でも、トラブルで定期検査が長引くなど、運転計画の変更は頻繁に起きています。9基稼働が実現するかは、不確実な要素を含んでいます。
実際、一部の原発で配管や機器の損傷が見つかるなどして一昨年の11月から2カ月余り関電の原発がすべて止まるという事態が起きました。出力が大きな原発で想定外の停止などが起これば、供給体制への大きな影響を及ぼします。
原発は災害にも脆弱(ぜいじゃく)です。
3月の東電エリアの需給ひっ迫は、3月16日の福島県沖を震源とする地震によって複数の火力発電所が損傷したところに3月としては異例の寒波が襲来したことが、直接のきっかけです。
東日本大震災や北海道胆振(いぶり)地震でも、集中立地した原発などの大型発電所が損傷し、計画停電や大規模停電が発生しています。
3月の地震では東北電力女川原発(宮城県)では、200ガル(ガルは加速度の単位)を超える揺れを観測しました。2号機は工事中でしたが、運転中であれば緊急停止をしていました。
原発は政府がいうように「安定」電源とはいえません。電力の安定供給を理由に原発依存を続けるべきではないことは、明らかです。
事故の教訓は
東京電力福島第1原発事故における最も重要な教訓は、原子力における規制と推進の分離です。
しかし、岸田首相は原発の「再稼働が円滑に進むよう」規制委での審査効率化を求めています。
岸田首相が経産相に指示して、事業者に定期検査の終了を急がせたり、工事の終了を急がせたりすることは、新たな危険を増大させる可能性があります。ましてや規制委の審査、検査を「効率化」などと称して、干渉することは、許されません。
岸田首相は、原発の再稼働だけでなく、将来にわたって原発を動かす狙いを隠しません。
22日に経団連の夏季フォーラムで講演した岸田首相は「原子力の活用は極めて重要」と強調。「次世代軽水炉、小型原子炉、核融合といった次世代技術の研究開発」に取り組みたいと述べています。
日本共産党は、「電力ひっ迫」を理由にした原子力の「最大限活用」という逆流が福島第1原発事故の痛苦の教訓を踏まえない姿勢だと厳しく批判。再稼働を許さず、「原発ゼロの日本」を実現するために力を尽くすと表明しています。
また、電力ひっ迫の問題では、エネルギーを海外に依存している経済の危うさが浮き彫りになったとして、省エネルギーと一体に、100%国産の再生可能エネルギーの大量普及で必要なエネルギーを確保していく道に進むべきだと主張しました。この方向こそ急がれます。
「最大限活用」は本末転倒
龍谷大学教授(環境経済学)大島堅一さん
9基の稼働指示は、大変問題です。福島第1原発事故を忘れたのかという問題があります。国が特定の電源を動かせとは言えないはずです。
温暖化対策を理由に、原発を推進するのは話が違います。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)には、原発を最大限動かしたとしても足りません。原発の新規建設も経済的に高コストで無理です。
他の国で、ゆり戻しは若干あるのですが、基本は再エネです。再エネを加速させるための政策がたてられています。
日本のように原発を最大限活用などと言っているのは本末転倒。環境保全としては失格です。事故が起きたことを踏まえれば、原発はクリーンとはとても言えません。
再エネを増やし、省エネを進めることで本当の意味でのカーボンニュートラルが達成できます。しかし、原発、原発というほど、再エネや省エネが後回しになってしまいます。
この冬の電力についていえば、冬中ずっと電気が足りないわけではありません。
しかし、仮に原発を動かすと、原発は発電量が調整できないのでベースロード電源となり、他の火力は動かさない。これまでと、構造は変わりません。一方、電力消費のピークに一体どれくらい足りないのか予測できますから、いつ頃、何時間足りないとなればその時のピークを変更させたり、節電するなどの対策が取れます。工場や商業施設も含めた対策ができます。原発を再稼働しないと無理などと言うのは違います。
(「しんぶん赤旗」2022年8月1日より転載)