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原発攻撃 防ぐのは困難・・脱原発こそ安全 環境経済研究所代表が報告書

 ロシアによるウクライナ侵略での原発占拠を受け、環境経済研究所代表の上岡直見法政大非常勤講師(環境政策)はこのほど公表した報告書で、原発施設が武力攻撃を受ければ施設の破壊は避けられず、結果的に放射性物質の拡散を引き起こし、甚大な被害をもたらすと主張しました。稼働中の原発が攻撃を受けた場合の被害の試算を示しました。

 報告書は、格納容器の破壊は難しいものの、変電施設や送電線などの破壊は容易だと指摘。これらが破壊されれば、東京電力福島第1原発事故と同じように冷却機能が失われて炉心が溶融し、放射性物質を外部に大量放出する事態になりうるとしました。また、電力需給を調整する給電指令所が制圧・破壊されれば、供給網全体が停止させられるリスクがあると強調しました。

侵入が容易

 日本の原発は海沿いに立地しているため少人数の特殊部隊による侵入が容易だと指摘。原発周辺に防衛部隊を配置しても、交戦は避けられず携行武器による周辺施設や使用済み燃料プールの破壊を防ぐのは困難だとしました。ウクライナ侵略のように原発周辺で交戦が発生すれば、非常用発電機の燃料などの必要な物資の補給や人員交代ができなくなると懸念を示しました。

 自民党などが主張する「敵基地攻撃能力」について、相手国の軍事拠点を全て同時に無力化するのは困難であり、残った拠点からミサイルなどの反撃を受けるため「原発防護の観点では全く意味がない」と評価しました。

 さらに、原発で使用中の核物質が軍事的に利用する意図があるとみなされ、攻撃の口実を与える可能性があると主張。「対立国家の核兵器を国内に誘致し起爆スイッチを相手に預けている『逆・シェアリング』といえる」と強調しました。

 武力攻撃による被害の試算は、稼働中の原発が炉心溶融によって格納容器が破損し、放射性物質が外部に大量放出したシナリオを検討。風向きは人口密集地へと向かう最悪のケースを想定し、拡散の計算方法は1977年の原子力委員会の気象安全指針に準拠。簡略化のため地形の影響や気象条件の時間的な変化は考慮しておらず、「あくまで目安で大まかな被害予測」だとしています。

 86年のチェルノブイリ原発事故後にウクライナで採択された汚染地域の区分にあてはめて計算すると、東海第2原発(茨城県)では、茨城の広範囲が立ち入り禁止となり、東京、埼玉、神奈川の広域が強制移住になります。柏崎刈羽原発(新潟県)では、新潟の一部が立ち入り禁止で、群馬、長野、埼玉、東京の広範囲が強制移住に。大飯原発(福井県)では、京都の広範囲が立ち入り禁止で、大阪、奈良の大部分が強制移住になります。

数倍の被害

 使用済み燃料プールが破壊されたシナリオは今回の試算に含まれていません。プールが破損し放射性物質が拡散すれば、試算の数倍の被害が起こる恐れがあるとしています。

 最悪、避難者は数百万人から1千万人台に達しますが、日本はウクライナと違い隣国への地続きの避難ができないため、「現実問題として『お手上げ』だ」と警告。「本質的な安全保障は脱原発・核物質の撤去だ」と主張しました。

 日米首脳会談(23日)では、中国の台頭を念頭に岸田文雄首相は軍事費の「相当な増額を確保する」と決意表明する一方で、両首脳は原子炉の運転の長期化を確認。格好の標的となる原発に固執する姿勢を示しています。

(「しんぶん赤旗」2022年5月25日より転載)